55/250
戦国哀歌55
俺はとにかく非人である事が発覚するのが嫌なのさと、男が言った。
船から降りて、入り組んだ路をそぞろ歩きながら男が言い出した。
「今向かっている寺は、俺が以前行って非人を理由に断られた寺ではない。じゃから俺は自分が非人である事を隠したいわけじゃが。どうだろう?」
才蔵が尋ねる。
「それはどういう意味じゃ」
男が答える。
「俺もあんたも坊主に化けて、雲水仲間という事にして欲しいのじゃ」
熟慮する間を置き才蔵が答える。
「いや、そんな小細工はしないで、ありのまま告げた方が無難だと思うのじゃが?」
男がかぶりを振り言う。
「いや、俺は非人である事が発覚するのが嫌なんだ。あんたは非人じゃないから分からないのさ。俺の気持ちなんか」
才蔵が改まった口調で切り返す。
「じゃが今は隠密、内通者に対する詮議が厳しい折りじゃし、変装などしたら逆に隠密だと断定されてしまうのではないかの?」
男が言う。
「坊主は坊主同士だし。その辺りの事情はあんたの執り成し如何にかかっているだろう。俺はとにかく非人である事が発覚するのが嫌なのさ。それだけじゃ」
 




