戦国哀歌53
寝たきりの幸助の床擦れが悪化した。
狂気が生んだ殺戮戦の陶酔に、身内を殺された人々は、やり場の無い憎悪と哀しみと虚無感に狂い、更なる狂気を戦場に形作る。
その狂気が形作った幸助の床擦れが悪化した。
人の骨格と言うのは長年の生活習慣に依って歪み、その結果体調にも変調を来たす。
加齢と共にその歪みが寝ている時の楽な寝相を形作り、寝返りは打たなくなって行く。
それが床擦れを悪化させる原因となる。
床擦れは介護をしている者の悩みの種と言えよう。
増してや戦国時代、床擦れ防止の寝具やパッドの類もなく、長時間放置すれば当然床擦れはどんどん悪化して行く。
ただ当時は敷き布団を敷いて寝るという習慣はなく、畢竟通気性の良い板の間や畳の上に病人を寝かしつけていた事も想像に難くは無いが、それでも放置すれば床擦れは容赦なく悪化した事も事実と言えよう。
床擦れは放置して置くと、腐り、その病人を殺し兼ねない。
そして床擦れは介護する者を眠らせず、看病疲れを増長して行く。
僧正警護の僧兵が眠らずに幸助を介護する綾に向かって言った。
「綾、眠れ、交代しよう」
まどろみかけていた綾が合掌し、念仏を唱え返礼した。
「すまないの、ならば少し眠るので、幸助の事よろしゅう頼みます」
僧兵が相槌を打ち言った。
「相、分かった」




