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戦国哀歌45
お主、わしの寝首をかくなよと、才蔵は言った。
会話の流れとして、そこで言わなければならない疑問符を才蔵は自然な形で投げ掛ける。
「お主、本当に毒消しの手掛かりを知っているのか。どうなのじゃ?」
暗がりの中男が薄ら笑いを浮かべ答えた。
「わしは単なる非人。下剋上の掟に翻弄されている信長とは違い、あんたに嘘を言ったとて天下が取れるわけではなかろう。それに加えてわしは善人でもなければ悪人でもない、その中途半端な部分であんたと取引を望んでいるわけじゃ。そしてこの取引はあんたが望めばいつでも裏切り、反古に出来る取引でもあるんじゃ。反古にするか?」
反古にするかと問われれば、無下に反古にも出来ず、才蔵は否定した。
「いや、様子を見るとしよう…」
男がもう一度欠伸をかいてから言った。
「明日は川渡りじゃからのう。もう寝るとしよう」
才蔵が念を押すように言った。
「お主、わしの寝首をかくなよ」
男が愉快そうに高笑いした後、直ぐに鼾をかき始めた。




