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戦国哀歌44
裏切りこそが天下人だと、男は言った。
燈籠の炎が消え、男が暗くなった天井を見上げ続ける。
「じゃがのう、わしは信長の天下取りの野望に敵対する下剋上は好きなのじゃ。戦乱の時代に在って戦いから逃げる事は即死を意味する。戦いの中では、下が上を裏切る事にのみ、絶大なる力があるわけじゃ。信長を裏切り陰で奴隷売買を成すその事は言わば富国強兵の誉れ、下剋上、闘神の鏡と言えるわけじゃ。そして下剋上の最も鋭利な武器は裏切りとなり、その裏切りこそが天下人の証となるわけじゃ」
才蔵が抜け目なく言う。
「裏切りが好きなそなたはわしも当然、裏切るわけじゃな?」
男がどす黒く笑い言った。
「わしは乱世の世に在って裏切りこそが正義、生きる寄る辺だと言っているだけじゃ。じゃから信長は裏切りの連鎖の中にあるからこそ、殺戮戦に陶酔して、そこに生き甲斐を見出だしている、言わば裏切りの魔王なのじゃ。じゃからこそ、奴は下剋上の時代に在って天下人たらんとしているわけじゃ。わしのうつけとは度量の違う大うつけよ」
そう言って男は高笑いした。




