戦国哀歌43
信長と同じようにわしも大うつけじゃと、男は言った。
男が憂いを湛えた目付きをして続ける。
「そしてわしも大うつけじゃと思うんじゃ」
才蔵が尋ねる。
「何故じゃ?」
「わしは親の仇を討つべく一揆衆に志願したが、一向衆の人間はわしを非人と差別して、受け入れず、わしはその身分制度を呪い、身分制度そのものに下剋上の鉄槌を食らわしたく、坊主に肝煎りして、再度志願しようとしているわけじゃ」
才蔵が訝り尋ねる。
「それの何処が大うつけなんじゃ?」
男が答える。
「わしは一揆衆と砦の陥落を目指し、命懸けで妹を救おうとしているわけじゃ。じゃが妹に取って救いとは性の奴隷になる事かもしれないではないか。それを邪魔立てするわしは正に大うつけそのものであるわけで。そしてもう一つ言えば、信長は天下国家の為に残忍に民を殺戮して、国の基幹たる寺を焼き打ちにして、その上前をはねるべく臣下の者は奴隷売買を繰り返しているわけじゃ。だから信長の戦いは奴隷売買と言う利益を生む温床と成り下がり、わしの戦いも奴隷売買を邪魔立てする温床と成り下がり、双方共に大うつけだと言う事ではないか。違うかの?」




