戦国哀歌41
生死の下剋上を鑑みると、地獄はそのまま極楽なんじゃと、男は言った。
男が言う。
「今は下剋上の時代だが、百姓から身を興してのし上がる者など例外中の例外であり、我ら非人はせいぜい忍びに身をやつして、その短い生涯を闇の中で舌を噛んでおしまいじゃ。だから例えば奴隷になって南蛮渡りしたとしても舌噛んで死ぬよりは増し程度のものよ。つまり我々非人は一向宗で言うところの念仏にも下剋上よろしく裏切られているわけじゃ。お笑い草よのう」
男が己を嘲るように一声笑い続ける。
「じゃからのう、わしの妹も南蛮に渡り、獣のような南蛮人の慰み者になっても、そこに生きる喜びを見出だせば、それが妹の極楽浄土となり、この土地で戦禍に怯えながら生きるよりは数段増しなわけじゃ。尤も、この話しは妹が南蛮人の慰み者の境遇に耐えられたらの話しじゃがな」
才蔵がまどろみそうになるのを辛抱しながら答える。
「物は考えようと言う事か…」
男が答える。
「その通りじゃ。例えば南蛮に渡り、性の奴隷になったって、この土地にいる時より美味い物を食えれば、妹は幸せだろうしな。ただのう、生死の下剋上を鑑みると、死んで地獄に堕ちる事を喜ぶ奴は、美味い物食うより、死んでの地獄が極楽となるわけじゃしの。正にそう考えると、人生など全て考えようとなり、面白いではないか。そう思わないか?」
才蔵がけだるそうに答える。
「わしはそんな事は考えないので、分からない」
男が卑屈な感じで笑い言った。
「そうじゃのう。これは戦乱じゃからこその、ひねくれた考え方かもしれないのう」




