戦国哀歌37
俺はその毒消しの手掛かりを知っているぞと、男は言った。
筵を持参して二人は旅籠に宿を取った。
板の間に筵を敷き、洗った着物を掛け布団代わりにして横たわり、男が喜ぶ。
「おお、やっと人心地がついたわ。本当にあんたは俺に取っては福の神様々じゃ。ところであんた筵を買い付け、路銭を払えるのだから、本当は何処かの寺の雲水なのか?」
才蔵が答える。
「まあ、そんなところじゃ」
くつろいだ表情をして男が続ける。
「それならば話しが早い。あんた俺と一緒に一揆に参画しないか?」
才蔵が恣意的に訝る口調で尋ねる。
「一向宗に組みしろと言うのか。それは何故じゃ」
男が答える。
「俺は両親を前田勢の者になぶり殺しにされたのじゃ。その敵討ちをしたいのじゃ」
才蔵が尋ねる。
「お主は一向衆なのか?」
男が否定する。
「いや違う。違うが、きゃつらは俺達家族を一向衆と断じ、なぶり殺しにして、首を野ざらしにしやがったのさ。俺は逃げおおせたのだが、きゃつらは親の仇、許せないのじゃ」
天井に眼差しを向け、瞬きを繰り返してから、才蔵は言った。
「じゃがわしは一向宗派ではないしの」
男が畳み掛ける。
「同じ坊主には変わりないではないか。と言うよりは、参画出来ない急ぎの用でもあるのか?」
才蔵がためらわず即答する。
「ある。わしも身内を前田勢の毒矢で射抜かれ、生きる屍になっておるのじゃ。その毒消しを当地で探しておるのじゃ」
男がくぐもった声で笑い言った。
「何だ、それならば話しは早い。わしはその毒消しの手掛かりを知っておるぞ。あんたが一緒に一揆に参画して、首尾よく俺の敵討ちが成功したら、教えてやってもいいが、どうじゃ?」




