戦国哀歌33
幸助は哀しみの夢を見ている。
幸助は夢を見ている。
自分の身体が火矢となって、我が寺に火を放ち、寺が燃えている。
仲間を焼き尽くす火の中で、火矢である幸助は止めろと、懸命に叫ぶが無情にも炎は全てを焼き尽くして行く。
「助けておくれ、幸助…」
寺の中で焼け死んだ母親の声を聞いた瞬間、幸助は中空に浮かぶ紫色の月になり、哀しみの涙を地上にぽろぽろと流して行く。
その涙は周囲の闇を深くし、みなしごの月は哀しみの涙を流し続ける。
「幸助、寂しいよ。幸助、どこにいるんじゃ」
綾に呼ばれても、みなしごの月は泣いて空に浮かぶだけで、返事すら出来ない。
やがて橙色をしたもう一つの月が目の前に現れる。
その月は家族が死んだ悲しみに自害した月で幸助にこう訴える。
「念仏なんか唱えたって無駄さ。寂しいよ」
みなしごの幸助は叫ぶ。
「うるさい!」
その声に自害した月が綾の声で答える。
「幸助、寂しいよ」
みなしごの月たる幸助は叫ぶ。
「綾!」
だがその声は悲しみの涙となって地上を濡らすだけで、綾の耳には届かない。
そしてみなしごの月は悲嘆にくれ、涙となり、地上に落ちて、草笛の音の寂しさそのものとなり、はかなく露と消えて行った。




