戦国哀歌241
僧兵頭が鉄砲足軽達の噂話に耳を傾ける。
光秀の軍勢に身を置きながらも、僧兵頭は信長を討ち取るべく鉄砲の手入れに余念が無い。
そんな僧兵頭を尻目にしながら二人の鉄砲足軽が噂話をする。
「どうやらお館様は上杉討伐ではなく家康殿を討つらしいぞ」
「真か?」
「おうよ、天下の情勢を鑑みて御公儀様に取っては家康殿こそが眼の上の瘤じゃからのう。討ち取る存念有っても少しもおかしくはないではないか?」
「成る程のう。しかし家康殿を討ち取るにしても、この地に布陣するは解せないのではないか?」
「いや、お館様は御公儀様に閲兵を戴く為にとりあえずはこの地に布陣しておる由なのじゃ。何も不自然な事はあるまいて」
「そうかのう?」
「そんなものじゃて」
その話しに耳を傾けながらも、僧兵頭は種子島の照準を合わせる動作等を為して素知らぬ振りをしている。
足軽の一人がそんな僧兵頭に一瞥をくれてから言った。
「しかしお館様が御公儀様への謀反を企てていると言う噂をものして、刺客に誅滅された話しは本当なのじゃろうか?」
その話しを聞いているもう一人の足軽が僧兵頭に目配せし、警戒心を顕にしながら言った。
「滅多な事を言うでない。そんな話しをしたら御身も誅滅される由じゃぞ」
忠告された足軽が卑屈に笑いながら言った。
「やはり本当なのじゃのう」
「嘘じゃ。そんな話し嘘八百じゃ!」




