戦国哀歌232
綾よ、わしがそなたに毒矢を放った張本人じゃから、わしの恋はとうの昔に潰えたのじゃと、狂った幸助は言った。
綾が主張する。
「幸助、わしが恋しくないのか、幸助よ?!」
狂った幸助が笑いながら言う。
「綾よ、そなたは、わしがおとうを討ち取った亡霊じゃから、わしはそなたを恋しゅうは無いわけじゃ。わしの恋はおとうの焼き討ちで終わったのじゃ」
綾が強く主張する。
「わしはここにおろう。幸助眼を覚ませ!」
幸助が再度嘲笑い言った。
「綾よ、そして長老よ。そなた達は亡霊の幻の賜物故、わしはそれを御かあと信じ、自害するわけじゃ。しかるにわしがおとうの首を討ち取った折り、綾も死に、長老も死に、皆死んで、わしはみなしごになったのじゃ。じゃからのう、わしを仲間外れにせんと、極楽浄土へ赴かせてくれ、頼む」
綾がひたすら抗う。
「幸助よ、今のわしは確かに長老の編み出した幻術の賜物じゃが、幸助よ、わしは生きておるのじゃ。それを信じて、わしの言う事を聞け!」
首を振り闇たる幸助が否定する。
「わしは仲間を殺し、毒矢にかけた時から死んだのじゃ。死んだ者に恋をする権利などなく、綾よわしのそなたに対する恋心はとうの昔に死に絶えたのじゃ。そしてのう、そなたに毒矢を放った張本人はわし故、綾よ、そなたは敵、恋しくは無いのじゃ」




