戦国哀歌229
もう楽にしてくれ御かあと、幸助は涙ながらに言った。
綾の声が長老の声に変わった。
「幸助よ、しっかりとするのじゃ。そなたはのう、信長暗殺の為に僧正を討ち取ったのじゃ。僧正はそなたにしてみれば、正に親子に等しいからのう、そなたが乱心する気持ちは重々分かるのじゃが、それでは僧正の気持ちが浮かばれないのじゃ」
幸助が狂った笑みを湛えたまま言った。
「長老、綾はどこにいるのじゃ。綾を出してくれ、長老?!」
長老が答える。
「綾はわしが面倒を見ておるから心配するには及ばない。お前は気をしっかりと持って、わしの命令通り信長暗殺に向けて精進するのじゃ。幸助よ」
幸助が泣き笑いの顔をして答える。
「そうか綾は無事なのじゃな。その言葉を聞いて安心したわ。わしはこれで心置きなく自害、綾と一つになれるわ」
纏わり付く闇を切り裂くように長老が怒鳴った。
「違うのじゃ、幸助。死んではならぬ!」
幸助が乱心そのままの呈で笑い続けた後悲しげに言った。
「長老、わしはもう身体が痺れて動かないのじゃ。もう楽になりたいのじゃ。長老、分かってくれ」
長老の声と綾の声が重なり、空が割れるように大声を張り上げた。
「死ぬな、幸助!」
幸助がピエロのような顔付きをして言った。
「もう楽にしてくれ、御かあ」




