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戦国哀歌227

わしの後悔はこの箸を持てぬ右手で信長の心の臓を突けぬ事ならば、それはそのまま信長の自害に繋がる由に付け、わしが自害すれば信長めも死ぬ事に繋がるわけじゃなと、幸助は言った。

うごめく影が続ける。





「やがて全身に毒が回り、お前は信長の首を討ち取るどころか、箸さえ持てなくなってしまう身。その前に自害して果てれば、悔いは残らないわけじゃ。案ずるより生むが易し、早う心の臓を突くが良いぞ」




幸助が疑問符を投げかける。





「箸を持つは右手の所業。左半身が痺れている事とは関係はあるまい?」





影がうごめきながら笑い言った。





「たわけた事を抜かすでない。右は左であり、左が麻痺すれば右も同じことわりではないか?」





狂った幸助が相槌を打ち言った。




「そうじゃのう。わしは左手が痺れている由に付け、それすなわち右手じゃから、わしの右手は左手の痺れで、箸もよう持てなくなるわ」





そう言って幸助が泣き笑いの表情を作り、涙を流しながら独りごちる。




それを好機と見て、影が幸助に畳み掛ける。





「最早お主に許された道は自害するしか無いのじゃ。急げ」




幸助が暗がりに向かって相槌を打ち答える。





「相分かった。しかしわしが心の臓を突くにしても、心の臓が死に切れない場合、心の臓の止めは誰が刺すのじゃ?」





幸助の周りを闇を引きずるように回転しながら影が焦れる。





「心の臓は突けば、それが止めなり。しからば介錯は要らぬわけじゃ」




幸助が座り直し、短刀を前に置いて、その短刀に尋ねる。




「暁の精霊たる綾よ、どうじゃ、心の臓に止めを成す業、そなたが引き受けてくれるか?」





短刀が茜色になり、縮んだまま同時にもどかしくも広大な綾の空となり、闇を照らしながら言った。





「幸助よ、信長を暗殺せずに自害すれば悔いが残るだけじゃ。然るに幸助よ、死ぬでない!」




幸助が泣き笑いしたまま引き攣るように笑い言った。




「わしの後悔はこの箸を持てぬ右手で信長の心の臓を突けぬ事ならば、それはそのまま信長の自害に繋がる由に付け、わしが自害すれば信長めも死ぬ事に繋がるわけじゃな?」




影が笑いで茜色の空を打つように言った。





「その通りじゃ。じゃから早う自刃するのじゃ!」

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