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戦国哀歌226
又しても己の影が幸助に自害を促す。
夜。
居間に入った幸助に、燈籠の明かりが象った己の影が話しかける。
「お主は信長を討とうとも、身体が麻痺して刀を持てない状態故無理じゃと思うが、どうじゃ?」
自分の影を見詰め、それが揺らめいているのが、心をざわつかせ乱している狂気のままに幸助は答える。
「そうじゃのう。わしは刀を持つこの腕にも力がよう入らない状況じゃしのう。この先、信長の首を討てるかどうかは分からぬのう」
畳に映った影が立ち上がり、音もなく幸助の不安感をまさぐるように幸助の身体を幽霊さながらに抜け、幸助は脱力し、身体の痺れが悪化して行く。
自分たる影が幸助の周りを踊るようにゆらめきながら言う。
「そなたの身体は毒が回り、その後遺症でボロボロな由に付け、信長暗殺など夢の又夢。身体が動く内に自害するが賢明なり」
幸助が泣きながら胡座をかき右手で左腕上腕部を掴み、痺れを確認してから言った。
「そうじゃのう、こんな腕では信長暗殺など覚束ないのう」




