戦国哀歌219
そうじゃのう。わしが綾を毒矢で射ぬき、殺したのじゃのうと、幸助は言った。
もう一人の自分が続ける。
「お主は、既にその刃により、両親の首を撥ねている由にて、それは親殺しの大罪、赦されるべくもなく自害して果てるが相応ならば、覚悟の程を示すのが常道」
寂しさの内にある夢うつつの中で、朦朧としながらも幸助は答える。
「わしは両親など殺してはいない。わしが殺したはおとうじゃ」
もう一人の影たる自分が笑って迎合し、男親の首を指差し言う。
「そうじゃ。お主が殺したは、その首じゃ。憐れよのう」
幸助は夢うつつの中で僧正と親の区別がつかなくなっている。
幸助が泣き笑いしてから言う。
「分かっておる。分かっておるがのう、わしは綾を一人置いては死ねないのじゃ」
下に映っている筈の影が同時に幸助と手を繋ぎながら言った。
「綾はもう死んだのじゃ。お主が毒矢で射ぬいたではないか。忘れたのか?」
その影の言葉に対して上空で鴉達が笑うように鳴き声を上げ、両親の晒し首が血の涙を流す。
そしてその両親の血の涙が幸助の尽きせぬ悲しみに変わり幸助は熱い涙を流しながら言った。
「そうじゃのう。わしが綾を毒矢で射ぬいたのじゃのう。そして綾は死んだのじゃのう。ようやくわしもそれを思い出したわ」
田園の上空が茜色に染まり、一陣の風が幸助の涙を益々そそり、影がその茜色の空に色を変えながら言った。
「その通りじゃ。早く覚悟の程を示されよ」




