戦国哀歌218
みなしごの寂しい涙を拭って幸助は言った。
両親が惨殺され、その首が晒された風景の中に立っている幸助。
夢うつつの中、幸助はもう一人の黒い影たる自分と不条理にも手を繋ぎ、鴉飛び交う田園風景の中に立っている。
両親の首が野晒しになって、鴉に目玉をえぐり突っつかれているのに、その鴉の声が網膜に映像を作るがごとく、両親が柴田勝家の軍勢に蹂躙されて行く姿が見える。
槍で次々と串刺しにされ、首を撥ねられ、鼻を削ぎ落とされて野晒しにされた両親の首が映る映像。
その幸助の網膜に映る映像に確かに映っている筈の両親が傍らで、その映像を見て、眼球をえぐられた目の穴から血の涙を流している両親の首が嘆息し、泣き笑いしているもどかしい風景。
幸助が涙を流し、その涙を黒い影が繋げられる筈のない手で掻き回し、笑いに変え、それが吹く風に撹拌されて、泣き笑いの表情を作る悲惨な風景を夢うつつのままに見ている幸助の横顔。
黒い影が手を繋いでいる手で矛盾を掻き消すように同時に鴉を指差し言った。
「自害するしかあるまい」
幸助が答える。
「いやわしはおとうと御かあの為に信長に敵討ちをなすんじゃ。じゃからわしは死なない。死んで堪るものか」
それを己の影が引き攣るように嘲笑うと、涙ながらに風景が暗転して、焼かれる寺の中に微笑みながら佇んでいる僧正がいて、刀をもっている自分が意に反して、震える手で首を撥ね、慟哭している映像の中に己が佇み、同時に傍観して泣き笑いしている哀しい情景。
もう一度己の影が言う。
「自刃するしかあるまい」
みなしごの寂しい涙を拭い、幸助は言った。
「わしは死なない。まだまだじゃ」




