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戦国哀歌215

幸助は狂ったように泣き笑いの表情を浮かべ、モノローグを繰り返す。

もう一人の自分はまるで亡霊のように夜になると現れる。




幸助は昼間精彩なく心虚ろなまま影の命令に自動人形よろしく従い、任務を遂行している。




そして夜になると、もう一人の自分との変則的な自問自答が始まる。




自分ではあるが自分ではない黒い影が言う。





「お前はもう十分闘ったのだ。もうこれ以上傷付き、悲しむ必要は無いではないか。極楽浄土に赴き仲間と共に笑い合おうではないか。それが信長暗殺の唯々ならば、逆らう必要とて無いではないか。違うのか?」




幸助は己自身の言葉に納得し頷く心を傍らに置き、横目で見遣り同意しつつも、意に反して反論を為す。




「いや、わしは極楽浄土に赴き仲間と共に笑い、その仲間の中に綾がいなければ駄目なのじゃ。それが信長の暗殺なのじゃ」





もう一人の自分が狂ったように嘲笑う。





「信長暗殺が綾の極楽浄土を招き、それがそのまま仲間の笑いになれば何も問題はあるまい?」




幸助がその言葉に泣き笑いしてから答える。





「だからわしはまだ死ねないのじゃ。信長暗殺を果たさなければならぬのじゃ」





もう一人の自分がいみじくも言う。




「いや信長はもう暗殺されたのじゃ。夜襲に会い死んだではないか。それがお前の僧正が死んだ事こそが信長の暗殺に相成ったのじゃ。その証拠に、お前の腕は痺れたままじゃしのう。早く喜びのままに自害致せ?」




幸助がくぐもったまるで別世界にいるがごとく声で笑い言った。





「そうじゃのう。お主の言葉は重々承知しておるのじゃがのう。わしを余り笑うな。燈籠の火が笑っている由につけ、わしはもう少し生きていたいのじゃ。分かってくれぬかのう」





もう一人の自分が畳み掛けるように言う。





「蝋燭の炎を消し、そしてお前が極楽浄土に自害すれば、それが信長の暗殺の麻痺なのじゃから、お前は炎になって笑うのじゃ。じゃから早う死ね?」




又泣き笑いの表情を作り、滲んだ涙を拭って悲しげに幸助は言った。





「燈籠の明かりを消せば綾の命が危うく、そうなるのが嫌じゃから、わしは燈籠の命を護り、雨に濡れながら悲しむし、然るに消さないのじゃ。分かってくれ」


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