戦国哀歌21
長老が幸助を見舞った。
一命はとりとめたが、幸助の意識が戻らない。
幸助を見舞い訪れた長老に向かって綾が言う。
「人の神経を麻痺させ、生きる屍にする毒です。どんな薬草も一切効きませぬわ」
長老が念仏を為し、慈しみの眼差しを幸助に向けてから言った。
「生きる屍か。ここのところ近隣の同門衆が薬草の効かぬ神経毒にやられ生きる屍にされていると言う話し、漏れ伝い聞いたが、それかのう…」
綾が相槌を打ち、息を吐き出してから尋ねる。
「やはり前田勢の仕業かと?」
長老が答える。
「分からぬ」
綾が己の戸惑いを掻き消すかのように合掌し念仏を唱えてから言った。
「長老、どうじゃ、幸助は助かりまするか?」
横たわり、時々高く鼾をかいて眠り続ける幸助に、あらん限りの情け深い眼差しを向けてから長老が言った。
「助けるしかあるまい。わしも色々薬草を煎じ、才蔵にもその探索を頼んだところじゃ。ただのう…」
綾が訝る。
「ただ、何じゃ、長老?」
長老が答える。
「わしはもうこの詰め所は訪れぬわ」
綾が困惑し、再度尋ねる。
「何故じゃ?」
長老が答えた。
「わしがこの詰め所を訪れたら、幸助は死ぬからじゃ」




