戦国哀歌208
優しさ、思いやりの親子の絆を断ち切った思いが、やんごとなき幸助の心を壊して行く。
深夜。
親子の絆を断ち切った思いが幸助の心を壊して行く。
みなしごの自分を拾ってくれて、信仰を軸に生きる意味とは何か、慈愛とは何かを教えてくれた僧正。
その僧正をあやめてしまい、動揺し、おののきうろたえ、どうにも涙が止まらない。
長老は信長暗殺その大儀の為に仲間を討ち取って人柱と成せと厳命した。
念仏の教えに鑑みても、信長暗殺は正に大儀、その大儀を念仏と為し、念じ、同門の者は笑って死んで行く。
だから戦場で念仏を唱え死んで行く行いは、そのまま信長暗殺の手掛かりであり、その念じこそが極楽浄土への道標なのだ。
幸助は歎きのままに考える。
そんな理屈は重々承知しているのだが、悲しみは深く涙が止まらない。
僧正は御仏の教えそのものであり、その僧正の首を討ち取った事は、そのまま御仏の首を討ち取った事と同義であり、万死に価する行為だと、幸助は思う。
僧正は母であり、父でもあったのだ。
その優しさと信義溢れる思いやりを刀にかけた自分になど生きて行く権利は無いと、そう幸助は思い、人知れず嗚咽して行った。




