戦国哀歌205
幸助の邪魔立てをしてはならぬと、長老が僧兵を恫喝した。
僧正警護の僧兵が言う。
「胸騒ぎがする故、長老、わしは寺に帰還致しまする」
長老が厳しい口調でそれを引き止める。
「いや、そなたは帰らなくても良い。ここに逗留してわしを手伝うのじゃ」
僧兵が怪訝な顔付きをして尋ねる。
「長老、何かわしに隠しておりまする由、それは何に御座りまするか?」
長老が一つ息をついてから、惚ける仕種をしつつ言った。
「これから寺を幸助が加勢する軍勢が焼き討ちにするのじゃ。僧正始め全員の者が討ち取られる由にて、そなたは帰る事、相為らんのじゃ」
僧兵が驚愕の表情を作りうろたえ動揺したまま喚く。
「わしは僧正警護の兵士、僧正の身に危険が及ぶ由ならば、わしはいざ寺に駆け付けまするぞ。長老、御免」
僧兵が立ち去ろうとするのを長老が恫喝する。
「駄目じゃ。そなたと綾は生きて幸助を迎えるのが宿命なのじゃ。依って行く事はならん。わしの指図に従うんじゃ!」
僧兵が泣きながら喚く。
「幸助が僧正の首を討ち取るのが宿命に御座りまするのか、長老?!」
長老が物静かに答える。
「その通りじゃ。幸助の邪魔立てをしてはならぬ」




