戦国哀歌203
影が軍勢で寺を焼き討ちにすると言い出し、幸助は胸騒ぎを覚えた。
旅籠に帰還した影が言う。
「本日はご苦労であったのう。わしも子供を毒矢で射ぬいたのは初めてであり、なかなかに痛快な所業であった由にて、あの子供がどのような症状を示し、生きる屍になるかは興味津々じゃ」
心を死に体にして、完全に閉ざしたまま、幸助が答える。
「御意」
燈籠を左手にして、膳を平らげてから、影が続ける。
「わしは明日我が軍勢と合流し、規模の大きな掃討戦に着手するつもりでおるのじゃ」
食欲は無いが、影の手間食さねばならない流れなので、幸助もつつがなく膳を平らげ礼を尽くしながら話しに耳を傾けている。
影がその幸助の仕種を鷹揚に愛でながら続ける。
「ここから十里程の処に一向宗の寺があるのじゃが、その寺は防備が堅牢、道場を有する寺並に強く、火矢を射かけても落ちないのじゃ。そこで数を頼み軍勢を頼り、焼き討ちにしたく、そこの僧正をそなたの刀で討ち取ってくれぬかのう?」
影の口にした位置から類推して、その寺は自分の寺ではないかと不意におもんばかり、幸助は狼狽し、胸騒ぎを覚え、心が散り散りに乱れて行くのを感じ取りながらも、平静を装い言った。
「御意」




