戦国哀歌202
細かく震える手でぶれを修正しながら、涙が滲み充血した眼で幸助は狙いを付けた。
朝方、少し肌寒いのを押して、影は幸助を連れ、たんぼが前面にある雑木林に身を潜めた。
弓を持ってうずくまっている幸助の耳元に唇を近付け、影が囁く。
「よし、来たぞ。的が小さい方がそなたの弓の腕、しかと見届けられる由にて、子供のほうを狙え」
畦道を歩いて来たのは確かに一向衆の者に相違ないと思える親子連れであり、子供はまだ年端もいかない男の子なのを見定め、幸助は動揺しうろたえるが、それを表情には出さず、生唾を飲み込んでから、相槌を打ち、震える手で弓を構えた。
影が少し距離を置き、再度囁く。
「よいか、太股じゃ。よく狙いを付けて、外さないように射るのじゃ」
二人は雑木林を右手にしつつ畦道を歩調を合わせながら歩いて来る。
風は少しあるが、その風で弓矢がぶれる程のものではない。
細かく震える手でぶれを修正しながら、涙が滲み充血した眼で幸助は狙いを付ける。
十分に引き付けた上で幸助は胸のつかえ、深い歎きを息にして吐き出しつつ、矢を放った。
矢は男の子の太股を正確に射ぬき、男の子は驚愕し絶叫を上げて倒れ込み、刺さった矢を掴みながら、のたうちまわる。
それに坊主頭の父親が驚きの声を張り上げ、やみくもに駆け寄ったところで、いつものように影が言った。
「よし、引こう」




