戦国哀歌194
僧兵頭は裏側の諜報戦争に着目し、影と対面を図った。
以前、雑賀鉄砲衆が信長勢に組みした経緯を思い出し、そのつてから裏側の諜報戦争に僧兵頭は着目しまさぐって行った。
石山本願寺の根来衆配下の密偵を通じて、信長の諜報集団に食い込むべく触手画策し、功を奏して、僧兵頭は鉄砲の腕前を前面に押し出し、影と対面を計り、適う運びとなって、滞りなく対面した。
小姓一人をはべらせ、上座から影が鷹揚に言った。
「そちは相当鉄砲の腕が立つらしいが、刀の方はどうなのじゃ?」
僧兵頭が平伏して答える。
「それなりに御座りまする」
影がにんまりとしてから言った。
「ならば、わしの首討ち取って、その皮一枚残し、ぶら下がったところを鉄砲で撃つ曲芸はどうじゃ?」
何かしらの信条を試されていると判断し、僧兵頭は平伏したまま答えた。
「一度試してみたい技にござりまする」
影が愉快そうに笑い言った。
「我らは影の諜報集団、言わば寝首をかくのが仕事じゃが、わしの首を撥ねる裏切りの信条、そちにあると見たわ。鉄砲で寝首をかく、その技大いに役立てて、我が寝首討ち取り裏切り諜報集団の育成を図ってくれ。我ら人の眼を盗む影の諜報集団なれど、敵の眼を欺き撹乱、逆に乱す為に戦場にも赴き、寝首を討ち取り、その首実検も致す故、信長公の影となり日なたとなって、俺の首を撥ねる隙を見るように内偵の鉄砲術磨いて欲しい。指南の程頼もうぞ」
この男は自分の本性を隠微な狂気で隠すくせ者であり、油断も隙もない旨を見抜きつつ、僧兵頭は平伏したまま答えた。
「御意」
 




