戦国哀歌19
僧兵が幸助と、怒声を上げた。
深夜。
一緒に夜回りをしている、専ら僧正の警護を旨とする僧兵が幸助に語り掛けた。
「今日は月も出てはおらず、闇が深いの。足元に気をつけないとな」
幸助が小声で答えた。
「そうじゃな」
寺の境内は深い闇に包まれ静寂そのものなのだが、その静寂が得体の知れない不気味さを醸し出しているのを幸助は感じ取った。
僧兵が囁くように言う。
「月明かりは物の影を作る。その影が見えない分、闇が深く不気味なんじゃ」
幸助が相槌を打ち答える。
「そうじゃな…」
寺の建物に沿って参道を直進し、突き当たると、土塀の手前を右に迂回する処で僧兵が再び口を開いた。
「幸助よ、今日はそちらには行かず、ここで引き返そう?」
幸助が答える。
「何か気配でもするのか?」
僧兵が答える。
「いや、気配は無い。じゃが闇が深すぎる…」
幸助が目の前の深い闇をねめるように凝視した後言った。
「じゃがこなたを通らなければ、夜回りにならないではないか?」
そう言って幸助が先導するように二三歩、歩を進めた刹那、闇を切り裂くような鋭い音がして、毒矢が幸助の右太股を射抜いた。
もんどり打って幸助が参道に倒れ、僧兵が怒声を上げて槍を投げ捨て、倒れた幸助に手を差し延べる。
幸助は激痛に悶え苦しみ、自ら刺さった矢を強引に引き抜こうとするが出来ず、絶叫を上げる。
僧兵がもう一度声を限りに叫ぶ。
「幸助!」




