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戦国哀歌188
才蔵を悼み、幸助は嗚咽しながら熱い涙を流した。
燈籠の蝋燭の炎を指でつまみ消して、幸助は溢れ出る涙を拭い、声を出さずに泣いている。
才蔵のはにかむような笑顔を思い出すだけで涙が止まらない。
「寒いの」
そんな他愛なく言った才蔵の言葉が脳裡に甦り、熱い涙をそそる。
裸になり、川で水遊びをして、一緒に遊んだ時の才蔵の楽しそうな表情が、逆に堪らなく悲しみをそそる。
鞋の鼻緒が切れて困った時の顔付きや、好物ではない食べ物を無理に食べて咳き込み、息を切らしていた、そんな些細な出来事が悲しみを否応なしに深めて行き、涙となって溢れ出て行く。
幸助は口ごもるように才蔵の名を呼び嗚咽する。
綾を慕う気持ちなど内気な才蔵には口に出す事など出来るわけはなく、その内気な心情が堪らない程美しい花のごとく思え、幸助は人知れずわななき、嗚咽して熱い涙を流し続けた。




