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戦国哀歌183
信長公の恫喝は逆効果じゃと影はうそぶいた。
顔をしかめ、一つ羽虫を避ける動作をしてから、影が続ける。
「裏切りとは人の本性、性根に根差すものであり、人間は性悪じゃから、この裏切りの根性は尽きることわりは無いわけじゃ。それが証拠に掟などに縛られていない限り人は己の利己、我欲妄執によって直ぐに裏切るわけじゃ。ましてや今は戦乱下剋上の世情。主君に忠勤を尽くしても、欺かれ首を撥ねられる時勢。討ち取られる前に主君の首を撥ね、のし上がる下剋上の慣わしこそが、裏切りの美徳と言って良いわけじゃ」
羽虫が群れて飛んでいる場所から抜け出しつつ、影が言葉を繋いで行く。
「信長公は配下の者にわしを裏切ったら承知せぬぞと恫喝するが、はっきり言ってあれは逆効果を齎すわけじゃ。人はあまのじゃくに出来ているもの故、恫喝などしてもその本性は変わらず、恫喝すれば恫喝する程に裏切り者の数は増えて行くことわりなんじゃ。じゃから信長公は裏切りの天下人を凌駕出来ないのじゃ。残念な事にのう」




