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戦国哀歌182
影の連なる言辞に心を置かず、幸助は無機質に返事を為して行く。
影が振り返り、幸助に念を押すように言う。
「所詮この世は裏切りの信条が全てであり、信義など夜露のごときものでしかない。民ももののふも、面従腹背、全てが裏切りの賜物であり、欺き偽る事のみが下剋上を生き延びる処世訓でしかないわけじゃ。そちもその道理しかと承知しておろう、どうじゃ?」
幸助が恭しく相槌を打ち答える。
「御意」
話している影が目敏く野草を見付け、そこに歩み寄り、摘みながら続ける。
「下剋上に於ける生き物としての裏切りそのものの天下布武を、完全に掌握制御出来る者こそが真の天下人であると、わしは思う。じゃが広く天下を見渡せば、信長公も含め皆裏切りの天下人に翻弄され、あたふたとしておる者ばかりじゃ。それは取りも直さず、裏切りの天下人を下剋上のことわりに則って凌駕していない証であり、それはそのまま天下人不在の裏切りこそが下剋上の天下人となる所以よのう。わしはそう思うわけじゃ」
心を置かず、幸助が無機質に返事を為す。
「御意」




