戦国哀歌165
身を焼くような暑さから逃れ、僧兵頭一同は息も絶え絶えに小川を見付け、そこに逃げ込んで、歓声を上げた。
夏場。
雨が降らず乾いた山林は、上がった火の手に瞬く間に焼かれて行き、業火を恐れ、煙りに巻かれないように、狐や狸、狼や鹿、野兎や熊などが風下の方に獣道を掻き分け、必死に逃げて行く。
そんな火の手から追われるように、向かって左手に急斜面の崖から絞り出されるような涌き水があり、右手に小川が流れ、その上流に滝のある場所を見付け、僧兵頭一同は息も絶え絶えに逃げ込んだ。
山火事の煙りが辺り一面に立ち込め、身を焼くような暑さから逃れて、服を着たまま小川の清流に身を沈めた一同は喜びの歓声を上げた。
僧兵頭が水をたらふく飲んで笑顔が戻った大僧正に言った。
「これで火に焼かれる事もなく、煙りにも巻かれず、敵の探索も振り切れる公算が出ましたね」
大僧正が訝る。
「火に焼かれず、煙りに巻かれなくなるのは分かるが、探索する者達の眼はどうやってごまかすのじゃ?」
僧兵頭が小川の清流を指差し答える。
「水に潜って、敵の眼を欺けば良いのです」
大僧正が再度訝る。
「水に潜っても、息が続くまい。それはどうするのじゃ」
僧兵頭が言い切る。
「息が続くように工夫を凝らしましょう」
 




