戦国哀歌163
長老、わしを殺してくれと、幸助は号泣しながら喚いた。
毒消しを与えても綾が目覚めない経緯。そして影と言う信長勢の間者が才蔵を欺き、才蔵を殺し、才蔵は人柱となって死んだ経緯。その間者が幸助や綾を生きる屍にした経緯等を長老は幸助に話して聞かせた。
話しを聞いている途中から、幸助は熱い涙を流し始め、苛立ちを長老にぶつけた。
「長老、何故わしだけ目覚め、綾は目覚めないのじゃ。効能が確かな毒消しを使ったのに、何故じゃ?!」
長老が苦渋に顔をしかめてから答える。
「分からぬ。才蔵が一人死に人柱となったから、お前だけが目覚めた結果を招いた事も考えられるし、この毒消しが綾には合わなかった事をも考えられるしの。分からぬのじゃ」
幸助が嗚咽した後なりふり構わず喚いた。
「その影なる者今どこにいるのじゃ。その者を捕らえ八つ裂きにすれば綾は目覚めるのではないのか、長老?!」
長老が両手で幸助を制しながら答える。
「影なる者は我等の仇。誅滅したい気持ち大いに分かるが、事はそんなに簡単なものではないのじゃ。幸助よ」
幸助が渾身の力で上体だけを起こして号泣しながら言った。
「それならば長老、今直ぐにわしを殺して、代わりに綾を甦らせてくれ。頼む、長老、そうしてくれ、長老!」
 




