戦国哀歌16
寺に火矢が撃ち込まれた。
敵方に内通する者を確保出来た事に依って砦は陥落し、一向衆側の戦勝となった。
だがやられたら、やり返すの掟に則り、前田勢は当然のごとく報復戦に出て、近隣の一向宗直属の寺や道場、村落を虱潰しに襲撃し、焼き打ちにして行く。
そのやり口は残忍そのものであり、民家を焼き打ちにして、焼き出された者を、女、子供の区別なく首を撥ね、その首から耳や鼻を削ぎ落とし、野ざらしにすると言う手口だ。
当然、一向宗方も防備を固めた寺や道場に信者を避難させ、前田勢の砦を片っ端から攻める戦法を取る。
一進一退の攻防が続く中、幸助達が住まう寺に夜襲が仕掛けられた。
火矢が納戸に撃ち込まれ、上がった火の手を寺の一揆衆が連携して迅速に鎮火しながら、その一方で火矢を撃ち込んだ前田勢の先兵隊の足軽を追い込み、捕らえたのだ。
「殺すな!」
「拷問しろ!」
「引き出せ!」
「逃がすなよ!」
怒号飛び交う中、篝火が焚かれた境内に円陣が作られ、その中に縛られた前田勢の足軽はほうり込まれ、無惨な拷問を仕掛けられる。
拳法で鍛えられた一向衆の猛者達が、手を縛られた足軽に容赦ない暴行を加える。
惨たらしく肉を打つ鈍い音が間断なく続く最中、唐突に足軽が自らの舌を噛み切り、もんどり打って倒れ、全身が小刻みに痙攣したかと思うと、えびぞりになり、脱力し放尿しながら絶命した。
その凄惨な光景を目の当たりにした綾が瞼を閉ざし合掌して、念仏を唱えると、集まっている一揆衆も皆憑き物が落ちたように綾に倣い、合掌して念仏を唱えた。




