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戦国哀歌155
鞋の鼻緒が切れ、長老は才蔵が死んだのを察知し、人知れず嗚咽した。
鞋の鼻緒が切れ、虫の知らせを感じながら、鼻緒を直しつつ、長老は込み上げる悲しみを堪え滲む涙を拭った。
だが才蔵の死んだ事を思うと、どうにも熱い涙が溢れ出るのを堪え切れない。
ひとしきり嗚咽してから、長老はまるで才蔵に言葉をかけるように独り言を言いはじめた。
「才蔵よ、辛かったのう。じゃがこれでお前の代わりに幸助と綾を甦らせてやる。じゃからのう、才蔵極楽浄土へ先に赴き待っていてくれ、のう、才蔵よ」
一度しゃくりあげてから涙をもう一度拭い、直した鼻緒から手を離し、熱した釜殿のところに行き、土鍋に刻んだ薬草を混ぜ、煎じ薬を掻き混ぜながら長老が続ける。
「のう才蔵よ、お前が人柱になった事に依って、この煎じ薬は完成するんじゃ。のう才蔵よ、お前の仲間を思う気持ちに依って、見事二人の命甦らせてくれよ、才蔵よ」
人知れず長老が熱い涙を流しながら嗚咽した後、杓から手を離し、おもむろに合掌して、瞼を閉ざし、念仏を唱えた。
 




