戦国哀歌151
才蔵の厚い胸板を種子島の弾丸が貫いた。
才蔵が刀を上段に構え、振り降ろそうとするその動きが不意に止まった。
その静止を影が苛立ち振り返って催促する。
「早く討ち取ってくれ。何を躊躇っておるのじゃ!」
才蔵の血走った眼から急速に眼光が失せて行き、才蔵がおもむろに言った。
「その密書には本当に毒消しの調合の仕方が書いてあるのか?」
影がなりふり構わず喚く。
「この期に及んで嘘は言わん。俺は己の生きるその事をあんたの刀で討ち取って欲しいのじゃ。その討ち首の正道なる裏切りは、あんたを裏切る事よりも大切なんじゃ。じゃから早く討ち取ってくれ。頼む!」
才蔵が影の言葉を拒絶する。
「わしはそんな事は尋ねてはおらぬ。この密書は本物なのかどうかを尋ねておるのじゃ。答えろ?」
影が焦れて唸り声を出したのと、ほぼ同時に種子島の銃声が轟き、その弾丸が才蔵の厚い胸板を貫通した。
才蔵は刀を落とし、胸を手で押さえ、片膝を地面につけて、白目を剥き血へどを吐きながら、前のめりに突っ伏し倒れて行った。
その光景を目の当たりにした影が種子島を撃った足軽にがむしゃらに飛びかかり、馬乗りになって短刀で喉元を切り裂いた後、返り血を浴びながら、何度も何度も心臓に止めを刺し、恫喝した。
「何故殺したんじゃ。わしの命令に背きおって、貴様など万死に価するわ。死ね、死ね、死ねえい!」




