戦国哀歌145
おお、あんた久し振りじゃないかと、影は才蔵に向かって言った。
影がどす黒く微笑んだまま身構えている才蔵に向かって言った。
「おお、あんた久し振りじゃないか。まさかこんな所で会おうとは、奇縁じゃのう」
才蔵が動きを止め、影を憎悪たぎる眼で睨みつけ刀を中段に構える。
それを両手の平を向けて制止しつつ、影が続ける。
「まあ少し待て。しかしあんたは手だれじゃのう。まさかあんたがそんな手だれだとは露知らなかったわ。ところであんたその腕を生かして、もう一仕事して欲しいのじゃが、どうじゃ?」
才蔵が殺意を込めた目付きで影を睨みつけたまま、刀を下段に構え直した。
再びそれを制して影が言う。
「まあ慌てるな。ところで物は相談じゃが、あんたその腕を生かして俺の首を撥ねてくれないか。俺はあんたみたいな手だれに首を撥ねられるのが夢だったのじゃが、どうじゃろうか?」
刀を構えたまま才蔵がおもむろに首を振るのを見て、影が微笑み言った。
「俺を殺せば、毒消しの手掛かりを得られなくなってしまうから、俺を殺すのは嫌か?」
何も答えずに才蔵が燃えたぎる眼で睨み返しているのを見て、影が鷹揚に一声笑い言った。
「図星か。しかしどうじゃ、あんたが俺を殺せば毒消しに辿り着く仕組みならば、あんたは俺の首を撥ねるか?」
才蔵が眼を充血させて細め答えた。
「信用出来ぬ」
その言葉を聞いて影が面白がるようにもう一度黒い笑みを湛え言った。
「俺の言葉は、俺の裏切りの信条の言わば誉れ。それを信じて貰えぬ事は俺に取っては名誉そのもの。その裏切りの信条に鑑みて、あんたは俺を殺せば、毒消しの手掛かりに辿り着けないと言う思惑に裏切って、俺を殺してはくれぬか、どうじゃ?」




