戦国哀歌127
兵糧攻めに、子供が「腹減った」と言って泣きじゃくりながら、飢え死にして行く凄惨なる光景を僧兵頭は目の当たりにする。
奮戦空しく、配下の者が全員討ち死にし、僧兵頭は最後の牙城である長島城に城主を死守するべく撤退した。
しかし信長の軍勢の掃討戦は止まる事を知らず、殆ど無傷のまま全軍長島城を全包囲した。
信長陣営はそのまま兵糧攻めを開始し、長島城の補給路を絶つ戦術を取る。
残忍な兵糧攻めは弱い老人、女子供を蝕んで行く。
「腹減った」と泣きじゃくる子供に僧兵頭は己の非常食たる干し芋を分け与え、母親が僧兵頭に向かって感謝の合掌を為し、念仏を唱え、僧兵頭も空腹でふらつく意識に鞭打ってそれに応えるが、腹を空かした子供は正直に「もっと欲しい、腹減った」だけを繰り返す。
そしてそんな泣き声もやがて聞こえなくなり、その子供は飢え死にして行く。
兵糧攻めの惨状に悲鳴を上げ、出城の城主は信長に降伏して、それを信長が承諾し、開門して、多くの一揆衆が(そこには勿論女子供をも含んでいるのだが)城外に助けを求めるように出て来たところを、信長は約束を違え、種子島や弓で惨殺して行く。
腹を空かした子供が矢で喉を射ぬかれ、泣きながら絶命して行くのを、母親が抱きすくめるが、その母親も矢で胸を射ぬかれて、子供を抱いたままの姿勢で息を引き取る。
そして生き残った者を数千人単位で油を塗ったまきや藁の類が置かれている柵の中にほうり込み、着火、有無を言わせず焼き打ちにして行く。
最期の力を振り絞って信者達に依って為されている、念仏の声が断末魔の絶叫に掻き消され、やがて人肉が焼ける臭いさえもしなくなると、重い静寂が訪れ、炭化した骸から白い煙りが上がり、不完全燃焼の音を立てて行く。
そして念仏が大合唱のように為されている他の柵の中に火矢が撃ち込まれ、油に引火して断末魔の絶叫が上がって行った。
 




