戦国哀歌121
長老が僧正に長島決戦は当然負け戦になると、軍師としての厳かなる口調で言った。
長老が僧正に提案する。
「才蔵を長島の決戦に加勢させるのは止めて、専ら寺の警護、周辺の道場や本寺の警護に当たらせて貰えぬか?」
僧正が長老の真意を図りかね、尋ねる。
「それは又何故ですしょうか、長老?」
長老は長島決戦の人柱云々の話しは伏せて、言った。
「この寺の周辺に毒消しの手がかりを持った者がおると夢見に出たのじゃ」
僧正が相槌を打ち、念仏を唱えてから即決した。
「分かりました。長老の仰せの通りにしましょう。しかし長老、その毒消しの手がかりをもたらす者は何処の誰なのですか?」
長老が惚けた表情を作り答える。
「そこまでは分からないのじゃが、その者と才蔵が出会えば、毒消しをもたらすやも知れぬと言う事なんじゃ」
長老は才蔵が人柱に立てば、毒消しにたどり着く事はひた隠す。
「長島に行ってしまってはその者との接触は図れないと言う存念ですか?」
影に会えば才蔵は人柱となるべく死ぬと言う事柄はおくびにも出さず、長老は答える。
「そんなところじゃて」
ここで僧正が表情を曇らせ再度尋ねる。
「やはり長島決戦は評定通り、信長めに軍配が上がる由なのでしょうか?」
長老が軍師としての厳かなる口調で言い放った。
「当然じゃろう。それは宿命じゃて…」
 




