戦国哀歌12
眼球を射抜かれ、痙攣しながら悶え苦しみ絶命して行く戦友に涙する才蔵。
一向衆の先兵隊が矢継ぎ早に砦に向かって火矢を放つ。
それを合図にしてときの声が上がり、念仏の大合唱が戦場を覆う。
その轟きを消さんとするかのように、砦方の板塀に横一列に穿たれた四角い穴から硝煙の臭いが立ち込め、何十丁もの火繩銃が一斉に火を噴いた。
数十人の僧兵がもんどり打って倒れ、どす黒い血を流しながら絶命して行く。
長い日本刀を担ぎながら、咄嗟にほふく前進する才蔵が慎重に頭を持ち上げて戦況を見守る中、今度は砦方から無数の矢が放たれた。
命中率が高い矢は放物線を描きながらも、大勢の一揆衆の身体を射抜き、鮮血を噴き出させ、絶命させて行く。
念仏が断末魔の絶叫で瞬時中断し、それを覆い隠すように再度念仏の大合唱がなされ、一際大音響を轟かせて行く。
火矢から引火した火で、砦の門は黒煙を上げ始めている。
才蔵の右横にいる僧兵が才蔵と同じように戦況を見ようと頭を上げた刹那、空気を切り裂く鋭い音がして、一本の矢が僧兵の左眼球をえぐり射抜いた。
僧兵が絶叫を上げ、痙攣しながら悶え苦しみ絶命して行くのを目の当たりにしながら、才蔵はその僧兵に向かって合掌し、その戦友の名前を震える声で呼んだ後、瞼を涙で濡らしながら、ねんごろに念仏を唱え弔った。
間断なく降り注ぐ矢の雨が突然止まり、次に砦の中から火繩銃の銃声が轟き、敵方から絶叫が上がったのを合図にして、ほふくしていた一揆衆は一斉に立ち上がり、砦の門に向かって猛然と突進した。




