戦国哀歌114
追っても無駄、もはやこれまでじゃと僧兵頭が震える声で言った。
時の経過と共に信長の殿隊は次々と惨殺され、その数を減らして行き、圧倒的な数の一向宗側の兵士が突破口を見出だして、ぬかるんだ悪路を、気力を振り絞って荒い怒声、掛け声を上げながら、負傷した僧兵が足を泥に取られて転び、立ち上がれず、そのまま凍死するのを放置しつつ、やみくもに信長を追う。
弓の名手は矢が尽きて、落ちている刀を拾い上げ、残された弓部隊の者と退却すべく背中を見せたその刹那、待ち伏せしていた僧兵頭がダッシュして体当たりをかまし、刀で背後から心臓を一突きにし、そのまま離れたところを、才蔵が重心を崩さない足捌きで近寄り、渾身の力で首を撥ね、血飛沫が上がった。
その返り血を才蔵が浴び、止めた息を吐いて抜き、刀を打ち棄てた直後、前方で怒声交じりの大声が上がった。
「敵将、林通政の首を討ち取ったぞ!」
「信長を追え!」
「八つ裂きにするんじゃ!」
その声に呼応するかのように、大勢の僧兵達が震える声で念仏を唱え出し、土砂降りの戦場にその声が轟いて行く。
その様子を尻目にしながら、僧兵頭が息を抜き、青ざめた唇を震わしながら言った。
「追っても無駄、もはやこれまでじゃ…」




