戦国哀歌113
足を切断されて苦しみもがいている仲間の心臓に、涙ながらに止めを刺した武将が矢に胸を射ぬかれ、泥の中に倒れ絶命して行く。
その惨殺に弓の名手がいち早く気取り、味方陣営の中に逃げ込んで行ったのを目敏く見届け、二人は一旦ぬかるんだ泥の中を後退し、再び叢の陰に隠れた。
額の滴を手の甲で拭い僧兵頭が震える声で言った。
「もう一度間合いを詰めて、隙を見て今度は直接きゃつを狙おう」
才蔵が相槌を打った直後、二人を襲うべく背後に忍んで来た武将を、樹上から飛び降りた忍びが羽交い締めにして、情け容赦なく盆の窪に短刀を突き立て、のうしょうをえぐり、首をへし折って、絶命させ、その返り血を浴びる。
その断末魔の絶叫に押し戻されるように刀を持った二人が再びぬかるんだ泥の中へとほふくし、前進して行く。
信長の殿隊はじりじりと後退しながらも、決死の形相をして弓隊が迫り来る敵に矢を射かけ、仲間が倒されたら、その殺した相手を殺すの奮戦を、命の限り繰り返してしている。
そして足を切断され、苦しみもがいている仲間の胸を信長勢の武将が涙ながらに刀で止めを刺し、その武将のずぶ濡れの甲冑を一向宗側が放った二本の矢がほぼ同時に射抜き、武将は血へどを吐きながら、泥の中に前のめりに倒れ絶命して行った。
 




