プロローグ
――また男か。
これで何人目だ。
もう姫は諦めたらよいのに。
往生際の悪い国王を持つと、
民は無駄な苦労を強いられる。
確か七人目だったように思うが。
城の中も外も、
朝から晩まで騒々しいことこの上も無い。
地図には慎ましやかな領土しか
記されてはいないというのに。
一体どこにこれだけの酒と食い物を
隠してあったのか。
いくら楽しみの少ない現世といえど、
世継ぎの祝いは、そろそろ飽きても
よい頃ではないかと疑問に思う。
……付き合いきれぬ。
***
もうそろそろ日付が新しくなる頃であるはずだが、人々の灯す明かりは邪魔だとばかりに夜の帳を街の外へと押しやっている。
街の中央に位置する小高い丘に、見下ろすようにというには少々語弊があるであろうこじんまりとした王城が、それでも今日はありったけの威厳をもってそびえ建っている。
城壁の周りに幾つかある見張りの塔、その中でも最も高い塔の上の古びた青い三角屋根に、黒く華奢な獣が器用に腰を下ろしている。大きな三角の耳、細く尖った鼻先、狼よりもほっそりとしたしなやかな体躯。一見漆黒に見える毛並みは、月の光をところどころに湛えて美しく輝いている。足先や耳、鼻や尻尾の先は墨に浸したかのように黒い。――どうやら狐、それも銀狐のようだ。鋭角な頂上に、豊かな尻尾をクッション代わりに巻きつけて、足先をすっと揃えて屋根の上から地上の光景をぼんやりと眺めている。
やがて銀狐はつまらなさそうにフン、と小さく鼻を鳴らすと、視線を街から城へと移し、窓から洩れる楽しそうな笑い声を不愉快そうに片耳で払い除ける。そしてすっくと屋根の上で立ち上がると、後ろ足で軽く屋根を蹴り、満天の星空へと融けていった。
随時更新。5、6章で完結……と思っています。