失敗する増税と成功する増税
増税に対する、世間の反応を(主にインターネット)で見ていて、以前から、これは誤解があるな、と思っていました。
分かっていない人は、ただ増税する… つまり、払うお金が増えるってだけで、ヒステリックに反応している事が多かったし、分かっていそうな人もほとんど意味を説明しないで書いている場合が多くて(なんか、喧嘩腰だったり)、とてもじゃないけど伝わりそうにもなかったり。
それで、その誤解を解く為の内容をずっと考えていたのですが、その過程で気が付きました。
……これって、“通貨の循環”を説明するのに、使えるのじゃ?
僕は通貨循環モデルなんてものを提案している恥ずかしい人間なんですが、その説明の手段がそろそろなくなりかけていたな、なんて思っていたんです。でも、税金の話をすればそれを説明できるかもしれない。ならば、やらない手はないでしょう。
そんな訳で、“通貨の循環”を説明する目的もあっての、“税金の話”をしてみたいと思います。
まず、初めに税金でも何でもない話から。
世間でよく言われていますね。“皆が買い物をすれば景気は回復し、経済は成長する”。これは、今の経済状況が需要不足だからこそ通用する理屈です。
お金を使うと、商品が売れます。すると、その商品を作る人が必要になり、人を多く雇うことになる。すると、労働賃金がその人に支払われ、その人はそのお金で何かを買うだろうから、また商品が売れる…
こんな事が起こって、通貨の循環量が増加するのですね。もちろん、これは労働力が余っていなければ、起こり得ません。しかし、今の世界の状況を見ると、全世界的に労働力が余っているようなので、少なくとも今は“皆が買い物をすれば、景気が回復し経済は成長する”という結論は正しいと考えられます。
さて。ここで、ちょっと深く考えてみましょうか。
ここに“迷惑な人”がいたとします。その人は、頼まれもしないのに、色々な物を買って来てくれるのです。ただし、勝手に他人の財布からお金を取って。
(なんだか、某ゲームの某キャラクターみたいですが。○ンビー!)
世の中のほとんどの人に、この迷惑な人が現れたとしましょう。そして、皆のお金で勝手に買い物をし始めてしまった。すると、どうなるでしょうか?
これは、お金を無理矢理に使わされているとはいえ、“皆が買い物をしている”状態と同じになります。そして、“皆が買い物をすれば、景気が回復し経済成長する”という先ほど出した結論がありますね。という事は、こんな“迷惑な人”がいたとするのなら、社会の景気は回復し、経済は成長する事になります。
さて。ここで、この“迷惑な人”を、国に置き換えてみましょうか。もちろん、国は税金という形で、あなたの財布からお金を抜き取っていくのですが。
つまり、それがあなたの望む買い物であるかどうかは別問題にして、国が増税して、増税した分を使えば、社会はそれだけ経済成長する、という結論になるのです。
これは「均衡予算乗数の定理」と呼ばれるものと同じ事を説明しています。もっとも、「均衡予算乗数の定理」では、労働力が余っているかどうかという点までは考慮されていないのですが。
実際にこれが社会で使われている例としては、国民の税金で警察や消防を運営しているのは、これに当たります。また、多額の消費税を徴収して、社会福祉を充実させる事に成功している国がヨーロッパにありますが、それもこの「均衡予算乗数の定理」によるものと考えてくれて構わないと思います。
なら、日本もこれと同じ事をやればいいとは思いませんか? 増税して、それを使って、経済成長だ!
ここで、「本当?」と、疑ったあなたは、正しいかもしれません。何か罠が隠されているかもしれない。もうちょっと慎重に考えてみましょうか。短慮はいけません。
実際、日本で過去、消費税を増やした時、景気を悪化させ、却って税収が落ち込むという事態にまでなったといいます(それが本当に正しい結論なのか、長期的な視点で疑ってみる価値はあると思います)。ただし、だからといって、これだけで増税を全否定するのも短慮だとは思いますが。実際、ヨーロッパでは消費税の活用に成功している例もたくさんある訳ですし。
増税に成功する場合と、増税に失敗する場合とでは、何が違うのでしょうかね?
……僕は“通貨の循環”を阻害する増税は失敗すると考えているのですが。さて、ではもう少し考えを進めてみましょうか。
税金を取られる、という事は、取られた分だけ、あなたの財布からお金が減っている事になります。あなたは、本当だったなら、そのお金を利用してたくさん買い物をしていたかもしれない。でも、取られてしまったならば、当然、使えません。
(代わりに国はあなたのお金を利用して、車の通らない道路、使い道のない建物、飛行機が降りない空港、等の、あなたが少しも欲しくないものを、買っているかもしれません。ま、実際に買っているのですが。まさに、ボン○ー!)
もっとも、あなたがお金持ちで、既にたくさんお金を持っているなら話は別です。少しくらい取られたって、まだまだたくさんお金はあるので、問題なく買い物ができます。
つまり、もし仮に“増税”で経済成長を狙うのであれば、ある程度、お金を持っている人をターゲットにしなくちゃいけないって話です。
これは“税金”を、考える場合、何処から取るのかが重要になってくる、という事でもありますね。
まだ、考えなくてはいけない点もあります。増税によって集めたお金を、何処にどう使うつもりでいるのか?
例えば、国が税金を使って金持ちが更に得をしたとしましょう。金持ちというのは、既に金を持っている人達だから、金を受け取ってもそれほど活発に消費活動をしない傾向が高いと言われています。
すると、そこで“通貨の循環”が阻害されてしまいますね。お金は貯蓄に回り、使われないのです。
当然、こうなれば、お金の循環を阻害し景気に悪影響です。下手すれば増税によって税収が減る可能性すらあります。
……確証はありません。証拠も何もありませんから。ただ、僕は過去、日本が消費税の増税を行った時に、却って税収が減った、つまり“増税に失敗した”のは、これが原因かもしれない、と考えています。
年功序列制度の下では、高齢化により、平均的な人件費は上がるはずですが、それに合わせて公務員高額所得者に支払う金を下げるなどといった事を国は行っていません。それに、他にも色々と怪しい。特別会計では、いったい、どんなお金の使われ方をしているのでしょう?
一部の金持ちの元にお金が集まってしまうような税金の使い方を国がやっていたら、それは充分に景気停滞の原因になります。特に高齢者は消費意欲が一般的に低いとされているので、高額過ぎる退職金や給与を支払ってしまうと、お金が使われず、景気に対して悪影響を与えると考えられます。
その他、例えば海外にお金が行ってしまうような税金の使い方をしても、景気回復を阻害するでしょう。
もっとも、海外を考慮する場合は、もっと熟慮が必要で、やり方によっては、日本が更に得をする(もしかしたら、既に得をしているのかもしれない)ケースも充分に考えられるので、全否定は禁物でしょう。役人などの海外研修という名目の、税金を使った海外旅行なんかは完全にアウトだと思いますが。
財政再建目的の“増税”を前提とする場合は、更に考える必要があります。借金の穴埋めに税金を使うのであれば、それは経済効果を生みませんから、お金を奪われた分だけ、景気にマイナスです。当然、その影響で税収も減る可能性が濃厚になりますから、増税に失敗する可能性も高くなるでしょう。
ただし、では何か“手”がないかと言われると、そんな事もありません。これから先、財政再建をしなくてはいけないのだから、その為の“増税”が避けられないは明らかですし、なければ困ってしまいます。
“国の借金が減る”、という事は、それはそのまま、“金融機関にお金が余る”事を意味します。その余ったお金が、投資などに使われ経済効果を産めば、財政再建目的の増税でも失敗しない可能性が高くなりますし、もちろん国民の生活も楽になります。
もしも、無策なまま増税だけをしたら、投資が勝手に増えるなんて可能性はほぼないでしょうから、悲惨な結末を迎える可能性が高い点は、よく分かってください。これは、確りと監視をしなくちゃいけません。
因みに、この“余ったお金が投資に向かう”パターンでも、実質的に“通貨の循環”がスムーズに起こっています。
色々と書いてきましたが、増税を考える場合に重要な点は要は“通貨の循環”を意識する、という事です。
例えば、逆累進性(低所得者の方が損をするという性質)が、指摘されている消費税だって、“通貨の循環”を考慮するのならば、必ずしもそうなるとは限りません。何故なら、払った分、税金の使い方によっては、低所得者の元にお金が返ってくる可能性も充分にあるからです。
……と言うよりも、そういうお金の使い方をさせなくちゃいけないのですが。
更に言うなら、もし消費税が低所得者の為の福祉などの費用に充てられる場合、そのサービスも受けられる事になります。
何が言いたいのかというと、ただ単に増税というだけで、それに反対するのではなく、使い方まで視野に入れて考えなくちゃいけない、という事ですね。
重要なのは“通貨の循環”です。
もっとも、これは税金に限った話ではなく、社会全体に言える事なのですが。
アメリカ経済の失敗は、“通貨の循環”を考えれば必然です。所得格差を異常に広げ、普通なら通貨の循環が遮断されているのを、金融経済のバブルと借金により、無理矢理に存続させていたようなものですから。
因みに僕は、アメリカ経済の凋落を、住宅バブル崩壊前から予言していました。“通貨の循環”が頭の中にあったからですね。もっとも、世間でアメリカ経済を不安視していた人は他にもたくさんいるので、別にそれほど自慢できた話でもないのですが。
また、日本社会が長い間デフレ続きになっている主な原因も“通貨の循環”を考えれば見えてきます。
古くからの年功序列制度の影響もあって、日本では高齢者が富を持つ傾向が強いです(民間では年功序列は崩壊に向かっていますが、国では先にも述べた通り、相変わらずに維持されています)。ところが、高齢者は消費意欲が一般的に低い。すると、高齢者の所にお金が集まってそこから先は回りません。これに、高齢者を優遇した社会保障が加わり、更に通貨の循環を阻害しています。
少なくとも、充分に生活できる高齢者に対しては、年金、介護、医療といった社会保障制度の切り下げを行うべきだと僕は考えます。そうでなければ、若者にお金が回らず、日本経済は持ち堪えられません。今は、その高齢者の使わないお金。つまり、高齢者が銀行などに預けたお金を、国が借りて使う事で“通貨の循環”が維持されていますが、このまま進めば国の借金の限界が来て、その構造が崩壊するだろう事は目に見えています。
余談ですが、一般的に社会が発展する為には、若い世代の為にお金を使うものです。ところが、日本では真逆をやってしまっている。衰退は必然でしょう。高齢社会に対応した社会制度を構築しなくてはなりません。
“通貨の循環”を意識するとは、基本的には一部に通貨を集中させ過ぎない事で、実現できます(特別、消費意欲の低い人達にお金を集めるのも駄目ですが)。簡単に分かりますが、例えば一人に世の中のお金を全部集めたら、その人が全額を使い切る事はまず有り得ないと考えて良いでしょう。そして、使い切らないお金は、全て循環しないお金になります。つまり、極端な富の集中は“通貨の循環”を阻害するのです。もちろん、実力主義や労働の対価を払うという視点からは、ある程度の格差は必要でしょうが、それには許容範囲があるはずです(アメリカの場合は、どう考えてもその許容範囲を超えています)。
ただし、観点はそれだけではありません。労働者が余っているのに、需要がない。需要不足の状態でも、通貨の循環は阻害されます。この場合は、新たな生産物を誕生させ、“通貨の循環”を作ってやらなくては、経済は委縮をし続ける事になります。
今まで、“通貨の循環”ばかり語って来ましたが、これにさえ気を遣っていれば問題がないかといえば、それも違います。今現在(2011年9月現在)、復興財源の案として挙がっている、所得税と法人税の増税を例にして、それを述べてみます。
これには明らかに問題があります。
所得税の増税に関しては、現役世代中心に負担がかかるので、今まで語って来た通り、“通貨の循環”の観点から問題がありますが、法人税の増税に関しては、もっと別の“企業の誘致”の観点から問題があります。
今現在(2011年9月)、韓国が必死に日本企業を誘致しようとしているのを、知っていますか? 土地の使用料を最大50年無料にしたり、法人税を5年間無料にしたり、といった凄まじい優遇策を取っています。その主な理由は、対日貿易赤字にあると言われています。
輸出が好調の韓国ですが、実は去年辺りから黄色信号が灯っています。主な原因の一つとして、日本から部品を輸入して、それを海外に輸出する、という仕組みで経営しているというものがあります。この赤字を減らす最もシンプルな手段は、“日本企業を韓国企業にしてしまえばいい”です。韓国に日本企業を呼び込んで、韓国で部品を作ってくれれば、対日赤字は必然的に減ります。もちろん、国内の雇用を増やすので、韓国経済全体にも好影響です。
当然、そうなれば日本は困った事態に陥ります。ただでさえ低い若者の就業率は更に悪化するでしょう。
韓国が目立っていたので、例に出しましたが、他の国だって日本企業の誘致を望んでいるのは同じです。
さて。
このタイミングで、企業を更に苦しめる法人税の増税をすべきでしょうか? 企業は海外に逃げちゃわないでしょうか? そうなれば、もしかしたら短期間では税収が上がるかもしれませんが、長期的に観れば、国内経済を委縮させ、税収を下げるなんて悲惨な事態に陥る可能性もあります。僕は嫌韓でも親韓でもありませんが、日本に余裕がない現状を鑑みるに、少なくとも法人税増税は愚策だと考えます(あまり、閉鎖的になるのもどうかと思いますが、これは程度の問題でしょう)。
個人的には、“通貨の循環”を充分に考慮した上での、消費税増税が望ましいのではないかと僕は考えます。
復興の為にお金が使われ、それが日本社会全体に波及すれば、その増税分は収入として返ってきます。通貨の循環が阻害されれば、そうはなりませんが。
最後に、毎回書いていますが、“通貨の循環”を応用した、財政問題を解決しつつ経済発展を起こす方法を、説明します。
まず、公共料金(税金でもいい)を新たに世の中に設定します。仮に、これで太陽電池を造るとしましょうか。
すると、太陽電池を生産した分だけ、国内総生産が上昇し、それだけ経済成長する事になります。国内で、人を雇うのならば、当然雇用も回復しますね。また、太陽電池を造る為の工場も建設する事になるので、当然、その分の設備投資による経済効果もあります。
料金(または、税金)を払う分だけ、国民の支出が増える、つまり負担が増えると思うかもしれませんが、通貨は循環しているので、支出が増えればその分、収入も増えます(国内で、ほとんどの労働力を賄う前提)。
もちろん、低所得者層には配慮すべきでしょう。
造った太陽電池をただ単に無料で設置するのではなく、蓄電池と合わせての効率の良い維持管理を行う事も視野に入れ、企業などのなんらかの組織、或いは個人から(電気代の代わりとして)管理料金を取るのならば、それで更に国内総生産が上がります。また、そうやってエネルギーの自給率を上げれば、海外からの原油やガスといったエネルギー資源の輸入が減るので、そこでも国内総生産が上がり、国内の利益が増えます。もちろん、税収も上がるので、財政問題も緩和します(もっとも金利が高くならなければ、ですが)。
さて。ここまでの説明は「均衡予算乗数の定理」と同じです。しかし、ここからが少しだけ違っています。
よく考えてもらうと分かるのですが、公共料金(または、税金)を新たに設定した分だけ、“通貨の循環”が増えています。と、いう事は、その分ならば、通貨を増刷しても物価上昇にならない、という事です。通貨需要が増えるのに合わせて、通貨供給を行っているからですね(ただし、経済回復に伴う、健全な物価上昇ならば起こる)。
当然、労働需要が増えるので、人件費も上がります。労働力を確保する目的で、正社員も増えるかもしれません。
太陽電池を例にしましたが、同じ原理を用いれば、風力発電だろうが、地熱発電だろうが、または医療介護といったものだろうが、利用が可能です。もっとも、“通貨の循環”を意識しなくてはなりませんが。
先に、生活能力のある高齢者への医療介護を切り下げる必要があると書きましたが、ここに書いた原理を上手く用いれば、それは避けられるかもしれません。
「均衡予算乗数の定理」は、既に利用の実績がありますが、この方法には前例がありません。ですから、実際に施行してみたら、どんな問題が起こるかは分かりません。特に金融経済への影響は、極めて不透明です(世間の理解が得られない場合は、通貨価値の下落を引き起こす可能性もあります)。
ただし、問題が起こったら、それを解決する手段を考えれば良いだけの話。また、もしこの方法が上手くいけば、労働コストが問題になって実現できなかった社会問題を解決する為の技術を活かせる事になります。労働力が余っている範囲内で、ですが。
そして、この方法が成功しさえすれば、今、世界中が抱えている経済の問題を、大きく改善する事が可能です。財政再建と経済発展を同時に達成し、アメリカもヨーロッパもアジアもアフリカも、経済的な難題を残り超えられるでしょう。少なくとも、その具体的な方法が明確になります。
試してみる価値があると、僕はそう考えます。
もちろん、その効果と意味について、よく国民に説明するべきでしょう。今の政治は、国民に対する説明責任を果たしていません。政治家本人が、よく理解していない、という要因もあるのでしょうが。