07 : heating
ファンファーレが鳴り響き、歓声が上がる。
ミスティアナ帝とフォグレスト帝のお出ましだ。
フォグレストの拝謁の間――舞踏会場は、3段に区切られていた。
下段は白磁の座。
一般的な貴族階級の人間たちが通される、拝謁の間の大部分を占めている白床の広間。
中段は碧石の座。
上位の皇族(皇太子など、皇帝と近い血縁にある者)が通される、碧石が敷き詰められた部屋1室分ほどの壇。
そして上段は、玉の座。
皇帝とその妃のみが登壇を許された、遥かなる威厳を持つ壇。
それは権力の構造を、視覚で認識させることでその心理にも植え付けるという、いつかの絶対的権力者が誂えた空間だった。
この間を統べることがすなわち、国家を統べると言っても過言ではないはずという空気。
碧石の座にいてさえも、押し潰されてしまいそうになる。
――ライオネル帝は、この空間にどんなふうに身を据えるのだろうか。
その思いは、興味に近かった。
玉の座にフォグレスト皇帝・ライオネル四世と父であるミスティアナ皇帝・ロゼット三世、加えて母のセノが姿を現した瞬間、一段下にいた私たち兄妹を包んでいた生暖かい空気が一転、鳥肌が立つほどの熱気になったのが、痛いほどよく分かった。
国家を動かす熱。
この熱が、皇帝への最早盲目的な信望が、帝政を敷く国家では必要不可欠なのだ。
なんて人間だろう。
即位直後で政情が不安定だなんて、よく言えたものだ。
見ていれば分かる。
皆若き皇帝に期待をしている。
よほど即位前後の騒ぎを上手く捌いたのか、それとも元よりの評価の高さか。
こんな熱は一朝一夕には作り出すことができないということくらい、私にも分かる。
例えばドリズリンで王に向けられていた、嘲笑にも似た冷たい空気。
例えばトルネディアで皇帝に向けられていた、畏怖にも似た刺々しい空気。
どれとも違う、これは疑いようのない熱望。
ぞくりと、背筋に冷たいものが走った。
同盟など結んで、得られるのは決して益だけではないのかもしれない。
しかし同時に、背後から視線が向けられているのも感じていた。
その視線にあるのが獰猛な肉食獣のそれではなく、純粋な好奇心であることはすぐに分かった。
――だから。
私も早く向けたい。
そう思った。
けれどそれはなかなか叶うことはなく、私はしばらくの間玉の座に背を向け、白磁の座へ手を振っていた。
そして、その時。
「レミリカ」と。
唐突に名を呼んだのは父だった。
突然のことに驚いて、思わず目を丸くしたのは言うまでもない。
そして振り向いた先で……笑む両親の隣に立つ、穏やかに笑む青年は。
昼間の見目麗しい青年を再び見た瞬間に、身体を駆け巡った驚きでない痺れは、もう例えようもないほど甘く。
ただ彼が身に纏っていたのは麻の質素なシャツではなく、シャンデリアの下で光沢を放つシルクの、この国の皇族男子独特の衣裳だった。
「また、会えましたね」と、悪戯っぽく細められた目は言っていた。




