06 : searching
気が付けば、視界の端で男を探している。
ぎちぎちに締められたコルセット、皮膚呼吸をさせないほどはたかれた白粉、合計したら赤ん坊より重そうなアクセサリーたちを身につけ、あとはひたすら愛想笑いを張り付ける。
涼しい顔してこなす経験値はついたけど、それでも苦手なものは苦手だ。
夜会と聞けば、とりあえず顔は歪む。
男を探すという目的がなければ、その舞踏会もきっとありふれた、退屈なものになっていたはずだった。
あの後。
男は再び訳の分からない道順で仄暗い路地を進み、訳の分からないうちに私は王宮の裏口に連れてこられていた。
「この垣根の穴、分かります?
この穴から入ればきっと誰にも会わずにご自分のお部屋に辿り着けますよ。あなたは、正気を保ってさえいれば道を覚えるのはかなり得意らしいですから」
「……なんで」
「さっき通ってきた道。
あなたが所々、こっちに行かなくていいのかという目をしてらしたので」
――よく見てる。
確かに、そんな目をしていたのかも。
元々の、彼に連れ込まれた路地に帰るなら絶対にここを曲がるはずなのにとは、何度か思って、そのたびにニヤニヤしながら迷うこともなく歩いている男の顔を伺いもした。
昔から人の顔よりも、道を覚えるほうが得意だった。
浮かれすぎて周りを見ていなかった結果、市の中では迷ってしまったけれども。
男にはそれを、ほんの少しの間に悟られたのだろうか。
私の特技が道に迷わないことなら、彼の特技は人間観察では?
くだらないことを考えていると、気が付いたら至近距離に男顔があった。
「……何を?」
「あぁ、いえ、なかなか珍しい表情を浮かべてらしたので」
ニヤリと笑うその頬に、指を思い切り突き立てたい。
その破壊衝動を必死に堪え、私は深々と頭を下げた。
「……本当に色々とお世話になりました」
するとその心の機微を読まれていたのか、思わぬ攻撃に合った。
「いえいえ。
数時間後の再会、楽しみにしていますから」
また思わず苦い顔になったところに、男は息を数回短く吐き出す。
最後に素晴らしい爆弾を投げて寄越したものだ。
そうして私はその垣根を越えながら彼に申し訳程度に手を振って、自室に素知らぬ顔をして戻ったのだった。
皆には、王城の中を探索していたら迷ってしまったということにしておいた。
下手に外に出て迷ってフォグレスト人の見知らぬ男に助けられたと言えば、父や侍女などは卒倒すると思ったから。
結果的にその問題は私の言い訳によりその場で解決し、間もなく私は、舞踏会のために飾り立てられることになったのだった。




