02 : telling-2-
忠誠の証に差し出す人質とはつまり、皇族同士の婚姻の話だった。
ライオネル帝は、即位前後の複雑な継承問題騒動からか、即位後数年が経ち、20は半ばを迎えてもまだ妃を迎えてはいなかった。
そこでミスティアナの皇女を正妃として迎え入れることにより、「賢帝」同士の結びつきを強固なものにしたかったのだろう、というのは、ミスティアナ帝国議会の面々が口々に私に言い聞かせた話である。
この時――と言うべきか、ロゼット帝には子供が3人いた。
長男である皇太子・ジャック、次男であり公爵位を賜ったフォード、そして唯一の娘である私――レミリカ。
選択肢は他になかった。
傍系貴族の中にも妙齢の娘はおらず、皇族の中でライオネル帝に嫁ぐことが出来るのは私しかいなかった。
「皇族は民が平穏に暮らすための道具だ」とは、フォグレストへ発つ前日の夜、父が言った言葉である。
激励よりも何よりも、そのたった一言が重く、私の肩にのしかかった。
それは私の身の振り方ひとつで故国の存亡が左右されるのだという、あまりにも過重な嫁入り道具だったのだ。
しかして、輿入れをしてから思い知ったことがあった。
フォグレストにはミスティアナと違い、後宮があるということ。
すなわち、正妃との間に子を生さなくとも、後宮の女性との子を嫡出子として世継ぎに出来るということ。
……私のほとんど唯一とも言える役割も取り上げられるということだった。
ライオネル帝即位前後の騒動が、その後宮内部の闘争であったと、小鳥の群れのようにお喋りな侍女達が話してくれた。
彼がそれによって、どれほど跡継ぎの問題に対して敏感になったのかということも。
後々の火種になりそうなことは決してしない。
それは「沈着なる賢帝」ライオネルⅠ世を知る人は皆口を揃えて言うことだった。
まして、将来的に他国の影響を受けやすくなる嫡子――ミスティアナ出身王妃との子供をつくることなど、彼にとってはもっての他なはずだ。
だから彼は私に触れない。
同じ寝室で休もうと、優しく情熱的なキスをしようと、素肌同士を重なることなく日々は過ぎ、その間ずっと私は、まだ見ぬ彼の子供の母親の影に怯えるのだ。
彼は私がどれほどこの縁談――この恋に焦がれたのかも知らないまま、私を焦がし尽くす気なのか。
もういい加減に気付いているのだろう嗚咽に気付かないフリをして、これ以上私を惨めにするのか。
あの日から、私にはあの人だけだというのに。




