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北の小国・ミスティアナ。
北に並ぶ3国の中央、東のドリズリン、西のトルネディアに挟まれ長く緩衝国として穏やかに発展してきたその国が、私の故国だった。
大河・フラトス川が形成する、比較的肥沃な平野が広がり、主な産業としては農業が挙げられた。
非常に閉鎖的な国民性からか、王朝成立時より国外への侵略の歴史はなく、祖先よりミスティアナは豊かな大地のみを活用してランデール大陸での地位を不動のものとしてきたようである。
他国へ行けばミスティアナ産の農作物が高値で取引されているのもその一例だった。
そしてミスティアナは、父帝・ロゼット三世が敷いた厳格な政治体制も高く評価されていた。
税収はかつてと変わらず、国政を回すには充分なほどには取っているものの、過去何百年と悩まされた冬の凍結期に、ロゼット帝即位以来民が飢餓で苦しむということが一切なくなった。
故にランデール大陸において父は「賢帝」と名高く、生きながらにして伝説とされていたのである。
「民に授けられたものは民に返せ」というのが父の信条。
皇族の義務は最も放棄してはならないものだった。
そして、南の大国・フォグレスト。
ランデール大陸の南部全域を支配する武力に長けた帝国。
ランデールで唯一金属物質・ラセドンを採掘出来、国家収入の半分以上をその加工と交易で賄っているその国が、現在私が身を置いている場所だった。
遡ること数年前。
北部西のトルネディアがミスティアナ領海を侵し、東のドリズリンへ侵攻しようとしたのが切っ掛けとなって、元来好戦的な性格を持たないミスティアナが大国・フォグレストと同盟関係を結ぼうとしたことに、私の婚姻は起因する。
当時、フォグレスト皇帝は即位したばかりのライオネル四世。
前帝が崩御して間もなく、まだ国政も不安定だったフォグレスト王朝もまたミスティアナと結ぶのを得策とし、事実上ミスティアナがフォグレストに服属する形で、ライオネル=ロゼット同盟が成立したのだった。
しかし次第にライオネル四世は国内でその力を強めていき、やがてその噂は父・ロゼット三世と並ぶ「賢帝」だとして、他国にまで漏れ聞こえてくることになる。
そしてフォグレストの政情が安定するにつれ懸念を抱くようになったのは、誰でもない父だった。
――切り捨てられる。
一度として弱腰なところを家族に見せたことのない父が、そんなふうに漏らし始めた折、けれどフォグレストからミスティアナに対し、ある要求が為された。
すなわち、ミスティアナ側から忠誠の証――人質――を渡せ、と。




