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only KISS, only YOU  作者: 綺穂
Step.0 焦らすところから始めましょう
2/15

00 : prologue



「どうしたんです?」



柔らかな寝台の上、仰向けになった私に被さっていた男が、まるで心配そうな顔をしてこちらを覗き込んだ。


端正な顔立ち。

長い睫毛に、すっと通った鼻梁。

濁りのない金糸は薄暗がりの中でも煌めいていて、碧い瞳は深海を思わせるほど澄んでいる。


女としての私の自信をいつも失わせるその面には、なぜだか今は苦悩が浮かんでいるように見えた。



「大丈夫……です」



私は、その視線から逃れるように横を向いて、そして意図せずして拗ねた口調で言った。


彼は綺麗な眉を寄せ、尚も食い下がる。



「……本当に?」


「はい」



そしてなにかを諦めたような溜め息が聞こえた瞬間、いつものように口付けが始まった。





いつも想う。

まるでこの口付けは、私のことを好きと言っているようだと。





ただ啄むような触れ合いから始まって、

段々と唇が覆われていって、

舌でなぞられて吸われ、

そしてノックされる。


中で互いが、優しく、深く絡んで、

目が眩みそうなほど長い間、何度も何度も確かめるように角度を変えられる。



それが、いつもの彼のキス。



一度途中で、目を開けたことがあった。

どんな顔をして彼はこんなキスをしているのだろうという、純粋な興味が勝ったから。


そうして視界いっぱいに広がったのは、もう焦点が合わないほど、まるで深海を覗き込んだかのような気分に陥るほど近く在った、碧だった。


目が合うと、彼は蕩けるような甘い顔を更に甘く歪めて、優しく微笑んでより深く舌を絡めた。



――やめて。これ以上勘違いさせないで。



言い放ちたい言葉は、喉の奥で疼くだけ。

私はただ為す術なく、また目を閉じた。





もう幾度、唇を重ねただろうか。


それでも彼は、私の素肌に触れようとはしない。

いつも私が彼の首に腕を絡めたところで溜め息を吐き、そしてそっと離れて、隣の寝台へ帰っていく。



そのたびに私は、泣き声を押し殺しながら泣いた。



どうすればいいのかも分からない。

聞きたくてもそんなことは聞けない。

自分からねだることなんて出来ない。


怖い。

いらないと言われるのが。


道具でいいはずだった。

私はただの道具のはずだった。

いつから私はこんなに欲張りになったのだろう。






分からなくて、また泣くのだ。




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