11 : despairing
心地よい微睡みに、いつの間にか誘われていたらしい。
柔く入り込む、フォグレスト独特の陽射しに起こされて一瞬惚けた頭は、侍女のきびきびとした声によって完璧に覚醒をした。
「レミリカ様、朝でございます」
ミスティアナから唯一連れてきた侍女のナウラは、ミスティアナ時代と相も変わらず容赦無くシーツを剥いで、私を急かした。
私の朝が弱い性質は、かつてとなんら変わりはないのだ。
……嫁いできてから、いっそうひどくなったにしても。
「陛下はもう執務をしてらっしゃるんですよ。
レミリカ様がこんなにぐーたら寝ていてどうするんですか」
「陛下は早起きだもの」
「そういう問題ではないでしょう!」
「だって、今朝もまだ夜の明けきらないうちに部屋を出ていかれたわよ」
「……それをご存じなら、どうしてその時間に起きないんですか……」
「そんなの気分よ」
そんな私に、横で深い溜め息を吐くナウラは、無視をした。
――言いたくなかった。
あんな風に、大切そうに扱われたことなど、誰に言えるだろう。
なぜかも分からず、なのに故を問うことも出来ない、そんな背反の感情を抱えて、誰にこの葛藤をぶつけられるというのだろう。
あの手が心地よかった。
ミスティアナにはない、フォグレストの暖かな陽射しにも増した穏やかさ。
そしてその手を追い掛けた唇は、いつものキスの熱もなくただ優しかった。
だから、期待してしまいそうになる。
あの温もりをもっと求めてしまっていいのかと。
そんな想いにも、裏切られることはあるのだから。
「そういえばレミリカ様、侍女たちがしていた噂なんですけれど……」
私の髪に櫛を通しながら、先ほどとは打って変わって言いにくそうに口を開いたナウラは、それでもなお、言うのを逡巡しているようだった。
「ナウラ」
そこまで言ったのならすべて言いなさいと、そんな威圧を滲ませた口調で名を呼べば、彼女は目を逸らしたままぽつりぽつりと呟いた。
「ライオネル帝が、側妃を後宮にお入れになるという話があるそうです」
「……そう」
「あくまでも侍女たちの噂ですから、信憑性は分かりませんよ」
「……ええ」
「ただ……
フォグレストの上位貴族に加えて、ドリズリンやトルネディアにも後宮の一室を狙う動きがあるのは確かなようですね」
「……分かってるのよ」
――分かっている。
まるで独り言のように漏れた言葉に、ナウラが反応することはなかった。
彼女はその後ただひたすらに、皇妃の侍女としての仕事を果たすばかりだった。
分かっている。
分かっているのだ。
私が彼の子供を産めないということは、つまりそういうことだ。
どんなに愛情を傾けたところで、それがただ彷徨うだけの、抜け落ちた魂のようになってしまうなら、そこには何の意味もない。
夢のような時間の後、それはひどく現実的な形をもって、私の心を侵食した。




