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only KISS, only YOU  作者: 綺穂
Step.2 優しい触れ合いには十分注意しましょう
13/15

10 : loving-2-



眠れないままの、一夜が過ぎた。





うつ伏せになって枕を濡らし、泣き声を隠すようにシーツを被り。

泣き腫らして、いつものようには上手く開かない目で見る空が白んできても、一向に眠気はやってこなかった。



――どれだけ絶望すれば、気が済むのか。



そもそも希望を抱かなければ、嘆きを迎え入れることもないのに。

身の程をわきまえていたのなら、こんなにも深く彼を愛することもなかったのに。



その昔、母様に読んでいただいた、小国の姫が大国の王と幸せな結婚をする絵本。


自分がこんな風になるまで、ここ何年も頭の片隅に埋めてあった記憶が溢れ出てくる。


彼女はどうやって幸せになるのだったろう。

魔法使いだとか、妖精だとか、お伽話の中にしか存在しないようなものたちから妨害を受けて、それでも最後には、愛する人に愛された。



向こう側の寝台の上、規則正しく動く、シーツが象っている逞しい背中をじっと見つめて。



私だけのために誂えられた寝台。

それでも、隣に彼が眠ったとしても十分に余るほどの広さがある。


まるで私の心の空白を体現するような、1人分の熱しか吸収しない真っ白なシーツは、キスの名残を残すように少しだけ乱れていた。



――いつか、



いつか彼があの寝台でさえ眠らない日々が訪れるのだろうか。

彼が後宮に迎える、彼の本当に大切な女性と共に微笑み、立っていられることが私には出来るのだろうか。





自問自答を繰り返し、その内ふと、空気が変わったことに気が付いた。





彼がむくりと起き上がり、寝台を降りる気配が背中越しにぴりぴりと伝わる。


まだ起きるには早いはずの時間。

出ていってしまうのかと、彼に縋ることすら考えた。



……臆病な私が、それを出来ないことも分かっているのに。



元々うまく開かなかった目を閉じて、眠るふりを続ける。

鎧のようにシーツを抱え込み、胸元でぎゅっと握り締めて自分を押し留めた。



――早く、過ぎ去って。



まるで永遠にも近い間、私はドアの閉まる音だけを求めて、耳を澄ましていた。

けれど私の荒い息遣いと、彼の忍ぶような足音を割るように私を支配したのは、ギシリと寝台が軋む音で――私の身体が少し深く寝台に沈み込む感覚だった。



『レミリカ』



いつも私を「姫」と呼ぶ低い声が、記憶にない甘さで名を呼んだ。


寝転んだ私の背中が、彼の熱を感じられるほど近くに腰を下ろした彼は、武骨な指で髪を梳きながら、それを追い掛けるように唇を滑らせている。



夢なんじゃないか。



それが願いなのか、現実逃避なのかも分からない。


ただ言えるのは、彼が私の名を呼び、今私に触れているということ。

私が夢を見ているのではないということ。





そして。





髪に甘く痺れるような余韻を残し、彼の唇が次に辿り着いたのは、まだ涙の跡の残る頬だった。


彼は深く溜め息を吐き、その跡をなぞるように顔の輪郭をはむと、音を立てて唇の端に口付けを落とした。



『レミリカ』






やはり甘い声は、まだ明けきらない仄暗い闇の中、私の心を鷲掴みにした。




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