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only KISS, only YOU  作者: 綺穂
Step.2 優しい触れ合いには十分注意しましょう
12/15

09 : loving-1-



重ねた息は蕩けるほど熱く、

交わした視線は深く刺さった。


視界いっぱいの碧はその濃さを増し、ほんの少しだけ遠くなった私を苦しそうに、なのに愛おしそうに見下ろす。



――なんで、そんな顔。



勘違いさせないでと、叫ぶのを堪えるように、目を閉じれば。



「……は……」



漏れ出た吐息は、どちらのものか。



最早溜め息なのか、荒くなった呼吸なのかも分からない。


そして意識せずと開き、合った目は、示し合わせたようにもう一度瞼に隠された。






また、繰り返す。





擦り合わされる。

まるで存在を確かめるように、拒絶しないかを確かめるように、何度も何度もそれは繰り返される。


ただそれもそのうちに覆い被さるものに変わって、彼はまるで食べるみたいに私の唇を吸い、時折甘く咬んでは私が喘ぐ姿を愉しそうに眺めるのだ。



それはとても甘美な誘惑。



舌で合わせ目を焦らすようにノックされては、もう開くより他に何も出来ない。


誘い込んで、彼が教えたように応えれば、より深く絡まるのもまた常だ。



けれどその間中、私はずっと彼の夜着を掴むばかりなのも初めから変わらない。


彼の首に縋ってしまえば、魔法はたちまち解けてしまうことを知っているから。

愛しいを溢れさせてしまえば、それはたちまち空気に溶けてしまうことを知っているから。



――抱き締めて、と。



願いは、口に出ることもない。


所詮私は、円滑な統治のための道具。

ただこんな風に、唇だけでも求められることが、喜びでなくてはならないのだ。


だから、それ以上を望むのは、ただの私のわがままで――





キスは続く。





隅々まで舌で探られて、もはや十分すぎるほどの渇望は確かに私の中に渦巻いているのに、それをねだることは出来ない。


彼の着る高級なシルクの夜着の肩口に、幾筋もの濃い皺がつくられている。



「……!」



だからこそ、夜着の裾から入り込んできたゴツゴツとした手の平の感覚に、私はすぐに意識を攫われたのだった。



素肌に触れる、火傷しそうなほど熱い手。


変わらず続けられて、けれどさっきよりも激しく私を覆う唇。



耐えきれず彼の首に縋っても、いつものように彼が動じることもない。


彼も夢中だというように舌を絡め、乱暴な手つきで丁寧に指が這わされる。

まるで触れられる悦びを、私に教えようとするかのようなその動作に、思わずぴくりと身体が震えた。



そして。



条件反射的に流れた涙が、私たちの間を通り、唇に流れ着いて塩味を香らせたその瞬間。



……彼の温みが離れ、隙間なく重なっていたようだったそこに、冷たい空気が流れた。



「もう、眠りましょう。明日も早い」



哀しげに笑む彼は、一体何を考えているのだろう。






言い訳めいた口調は、私の心を抉るのには十分だった。




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