09 : loving-1-
重ねた息は蕩けるほど熱く、
交わした視線は深く刺さった。
視界いっぱいの碧はその濃さを増し、ほんの少しだけ遠くなった私を苦しそうに、なのに愛おしそうに見下ろす。
――なんで、そんな顔。
勘違いさせないでと、叫ぶのを堪えるように、目を閉じれば。
「……は……」
漏れ出た吐息は、どちらのものか。
最早溜め息なのか、荒くなった呼吸なのかも分からない。
そして意識せずと開き、合った目は、示し合わせたようにもう一度瞼に隠された。
また、繰り返す。
擦り合わされる。
まるで存在を確かめるように、拒絶しないかを確かめるように、何度も何度もそれは繰り返される。
ただそれもそのうちに覆い被さるものに変わって、彼はまるで食べるみたいに私の唇を吸い、時折甘く咬んでは私が喘ぐ姿を愉しそうに眺めるのだ。
それはとても甘美な誘惑。
舌で合わせ目を焦らすようにノックされては、もう開くより他に何も出来ない。
誘い込んで、彼が教えたように応えれば、より深く絡まるのもまた常だ。
けれどその間中、私はずっと彼の夜着を掴むばかりなのも初めから変わらない。
彼の首に縋ってしまえば、魔法はたちまち解けてしまうことを知っているから。
愛しいを溢れさせてしまえば、それはたちまち空気に溶けてしまうことを知っているから。
――抱き締めて、と。
願いは、口に出ることもない。
所詮私は、円滑な統治のための道具。
ただこんな風に、唇だけでも求められることが、喜びでなくてはならないのだ。
だから、それ以上を望むのは、ただの私のわがままで――
キスは続く。
隅々まで舌で探られて、もはや十分すぎるほどの渇望は確かに私の中に渦巻いているのに、それをねだることは出来ない。
彼の着る高級なシルクの夜着の肩口に、幾筋もの濃い皺がつくられている。
「……!」
だからこそ、夜着の裾から入り込んできたゴツゴツとした手の平の感覚に、私はすぐに意識を攫われたのだった。
素肌に触れる、火傷しそうなほど熱い手。
変わらず続けられて、けれどさっきよりも激しく私を覆う唇。
耐えきれず彼の首に縋っても、いつものように彼が動じることもない。
彼も夢中だというように舌を絡め、乱暴な手つきで丁寧に指が這わされる。
まるで触れられる悦びを、私に教えようとするかのようなその動作に、思わずぴくりと身体が震えた。
そして。
条件反射的に流れた涙が、私たちの間を通り、唇に流れ着いて塩味を香らせたその瞬間。
……彼の温みが離れ、隙間なく重なっていたようだったそこに、冷たい空気が流れた。
「もう、眠りましょう。明日も早い」
哀しげに笑む彼は、一体何を考えているのだろう。
言い訳めいた口調は、私の心を抉るのには十分だった。




