お嬢様、断罪劇(ランウェイ)のドレスはお任せを! 〜推し令嬢が婚約破棄されると聞いたので、最高の「戦うドレス」で返り討ちにしてあげました〜
王立学院の夜会会場は、異様な緊張感に包まれていた。
「――エレノア・フォン・グラディス!
貴様のような不敬で陰湿な女との婚約など、もはや維持できん!
本日この場をもって、婚約破棄を宣言する!」
金ぴかの王太子が、可憐(を装った)男爵令嬢を片腕に抱き寄せながら、大声で宣言する。
周囲の貴族たちは息を呑み、ヒソヒソと囁き合った。
(……やれやれ、始まったか)
私の名はルカ。
表面上はグラディス公爵家に雇われた一介の針子……だが実体は、弱冠十八歳にして帝国の裏ファッション界を仕切る仕立て屋であり――何より、エレノアお嬢様の絶対的専属デザイナー(兼ガチ勢ファン)である。
「ルカ、聞こえたかしら? どうやら私、追放されるみたい」
私の隣で、扇子で口元を隠したエレノアお嬢様が、冷ややかな瞳で王太子を見つめながら呟く。
「聞き及んでおります、お嬢様。
……で、本日の『演出』はいかがなさいますか?」
「そうね。頭のおめでたい男に未練なんて、微塵もないけれど……言われっぱなしで引き下がるのは、グラディス家の名誉が許さないわ」
「かしこまりました」
私はそっと胸ポケットから、魔法の針と特製のシルク糸を取り出す。
「では――『断罪劇』を、お嬢様の『決戦ランウェイ』へと変更いたします」
私は指先を滑らせ、一瞬で彼女のドレスに仕込んであった『隠し魔導糸』を解除した。
――サァッ!
夜会会場の魔導照明が、計算されていたかのように一斉に収束し、エレノアお嬢様ただ一人を照らし出す。
「な、なんだ!? 光が……!?」
狼狽える王太子たちを余所に、お嬢様が静かに一歩を踏み出した。
瞬間、彼女が纏う暗紫色のドレスが、光を浴びて幾重ものグラデーションを描きながら、黄金と漆黒の最高級ドレスへと変貌を遂げる。
ルビーを織り込んだ特製の生地が、歩みに合わせて夜会の明かりを反射し、炎の如く眩い光を散らした。
「――ひっ……!?」
あまりの威厳と美しさに、男爵令嬢が悲鳴を上げて後退る。
「殿下」
エレノアお嬢様の声が、会場の隅々にまで響き渡った。
ヒールが打ち鳴らす澄んだ音が、王太子の怒号を完全に上書きする。
「私を処罰なさるというのでしたら、どうぞご自由に。
ただし――我がグラディス家が王家に融資している『国家防衛費の全額引き揚げ』と、『魔導絹織物の独占供給停止』の手続きは、すでに完了しておりますわ」
「な、なにいっ……!? 何を勝手な――」
「勝手なのはどちらかしら?」
お嬢様はふっと艶やかな笑みを浮かべ、バサリと扇子を広げた。
仕草一つ取っても、ミリ単位で調整した袖口のラインが、腕の美しさを極限まで引き立てている。
「見苦しいのは殿下ですわ。
……ルカ、行きましょう。
こんな悪趣味な会場、長居する価値がありませんもの」
私は深々と頭を下げ、お嬢様の裾をエスコートする。
背後では、防衛費の引き揚げを知った王太子が青ざめて崩れ落ち、会場中から嘲笑と感嘆の溜め息が漏れていた。
ざまぁみなさい、おバカな殿下。
うちのお嬢様を誰だと思っているの?
世界で一番美しく、そして――怒らせてはいけない「最強の悪役令嬢」よ。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
推しのお嬢様のために全力でドレスを仕立てる針子ルカと、最高の美しさで魅せたエレノアお嬢様の爽快感を楽しんでいただけていたら幸いです!
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