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幕末に転生したら近衛家の姫でした。まず屋根を直します【累計350万PV/75万UU突破‼ 幕末経済戦記】  作者: 1009


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第三話「御所の目、と見抜く者」

 仮の御所に初めて上がったのは、秋の晴れた朝だった。


 近衛家から御所までは、さほど遠くない。京の都は狭い。しかし糸子にとって、その短い道のりは妙に長く感じられた。


 理由は分かっている。


 緊張ではない。


 前世の咲は、百貨店で大口の顧客の邸宅にも出入りしてきた。どれほど格式のある場所でも、物怖じしない自信はある。


 緊張ではなく、観察への集中だ。


 御所というのは、情報の宝庫だ。


 それをどこまで拾えるか。そこに意識が向いているから、道が長く感じられた。


「姫様、緊張なさっていますか」


 隣を歩くお梅が小声で聞いてきた。


「していません」


「そうでございますか。お顔がいつもと違いますので」


「観察しているのです」


「観察?」


「御所がどのような場所か、ちゃんと見ておきたいので」


 お梅が少し間を置いた。


「……姫様は本当に、いつも何かを考えておられますね」


「何も考えていない時間は、もったいないですから」


 近衛家の者として御所に上がること自体は、格式の上では何の問題もない。五摂家筆頭の姫君が御所に出入りするのは、むしろ自然なことだ。


 今日の名目は、台所方への挨拶と、先日手配した食材の納入確認だ。


 取り次いでくれたのは、御所台所方の責任者である年配の女官だった。名を、さとという。


 さとは六十近い、小柄で背筋の伸びた女性だった。長年御所に仕えてきた人間特有の、静かな威厳がある。糸子を見る目は、最初から値踏みをしていた。


「近衛様の姫君がわざわざお越しとは、恐れ入ります」


「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます」


 糸子はさとの視線を正面から受けた。


 さとが何を見ているか、分かった。「六歳の姫君が、本当にこの商売を仕切っているのか」という確認だ。


 公家の子女が御所の台所の話をしに来るなど、普通はない。本来であれば父上か、近衛家の家司が動くべき話だ。六歳の姫君が直接出向いてくること自体が、異例だった。


 しかしさとは、それを口に出しては言わなかった。


 近衛家の姫君に対して「なぜご自身で」と問うことは、格式の上では差し出がましい。さとは御所の女官として長年の経験がある。その礼法を崩すことはない。


 糸子はその沈黙を使った。


「先日手配いたしました食材の品質については、いかがでしたか」


「はい、大変結構なものでございました。特に宇治の茶は……久しぶりに上質のものをいただきました」


「それは良うございました。今後も定期的にお届けできるよう、手配いたします」


「ありがたいことで……しかし、近衛様にそのようなご負担を」


「負担ではございません」


 糸子は静かに言った。


「御所がお困りの際に少しでもお役に立てることは、近衛家の本来の務めでございます」


 さとの目が微かに動いた。


 本来の務め、という言葉の使い方が、糸子は気に入っていた。商売の話を「御奉仕」に変換する言葉だ。父上に言った言葉と同じ論理だ。


 さとは深く頭を下げた。


「……姫様のお心遣い、台所方一同、有り難く頂戴いたします」


 話は通った。


 さとに案内されて台所方の一角を見せてもらいながら、糸子は素早く状況を確認した。


 食材の保管状態。調理場の清潔さ。働いている女官の人数と年齢層。調理道具の状態。


 全体的に、人手が足りていない。


 本来これだけの規模の台所を回すには、もっと多くの人員が必要なはずだ。しかし今いる人数は明らかに少ない。一人一人が複数の役割を兼ねている様子が、動き方から見て取れた。


 前世の百貨店で、売り場の効率化を手伝ったことがある。人員が足りない中でどう回すか、という問題は見慣れている。


 しかしここで「人員を増やしましょう」と提案するのは早い。


 まず信頼を積み上げることが先だ。


 糸子は台所方の見学を終えて、さとに礼を述べた。


「大変参考になりました。また近いうちにお邪魔してよろしいですか」


「もちろんでございます。いつでもお越しを」


 帰り際、糸子はさとに一つだけ付け加えた。


「さと様、一つお願いがあります」


「はい」


「今日の訪問について、御所の外には……特に幕府方のお耳には入らないようにしていただけますか」


 さとが少しだけ目を細めた。


「それは……なぜでございましょう」


「近衛家が御所のお台所のお手伝いをしているとなると、幕府から余計な口を出されることがあるかもしれません。臣下の務めを果たしているだけのことに、外から口を挟まれるのは煩わしい。それだけの話でございます」


 さとは少し間を置いてから、頷いた。


「心得ました」


 その返事が、思ったより早かった。


 さとも同じことを考えていたのかもしれない、と糸子は思った。御所の内情を幕府に知られることへの、女官としての警戒心がある。


 利害が一致した。


 帰り道、御所の廊下を歩いていた時だった。


 角を曲がったところで、糸子は立ち止まった。


 廊下の先に、一人の少女がいた。


 年の頃は、糸子より少し上だろうか。八歳か九歳か。御所の女官見習いらしい装束を身に着けている。手に文書を持って、何かを確認していた。


 糸子が立ち止まったことに気づいたのか、少女が顔を上げた。


 目が合った。


 糸子は、その目を見た瞬間に何かを感じた。


 言葉にするのが難しい感覚だ。


 普通ではない、という感じ。


 子供の目ではない。いや、子供の目ではあるのだが、その奥に何か別のものがある。大人でも持っていないような、静かな知性の光。


 しかし糸子がそれ以上考えるより先に、状況が問題を提示した。


 この少女は、御所の女官見習いだ。


 近衛家の姫君である糸子より、格式は圧倒的に下だ。


 御所内の礼法では、格式の下の者が上の者に先んじて話しかけることは、極めて礼を失する行為だ。この少女が糸子に声をかけることは、本来あってはならない。


 だから少女は黙って、静かに頭を下げた。


 糸子もその礼法は理解している。


 この場で少女に声をかけるかどうかは、糸子の判断次第だ。


 糸子は少女の目をもう一度見た。


 頭を下げていても、伏せた目の奥に光がある。


 糸子は決めた。


「面を上げなさい」


 糸子は少女を正面から見た。


「名前は」


 一瞬の間があった。


 少女が静かに答えた。


「……村岡、と申します」


「村岡。御所に上がって長いですか」


「まだ半年にもなりません」


「どこから来ましたか」


「備前岡山の、武家の家から参りました」


 武家。公家ではない。


 御所の女官には公家の娘だけでなく、各地の武家や町人の出身者もいた。読み書きや算術の心得があれば、なおのこと重宝される。


「何ができますか」


「……読み書きと、算術を少々」


「算術」


「はい」


 算術ができる女官見習いは、珍しい。


「どの程度できますか」


 少女が少し迷った様子だった。


 それから答えた。


「台所方の帳面を、昨日確認しました。三か所、計算が合っていない箇所がございました」


 糸子が内心で眉を上げた。


 自分から言ったのではない。聞かれたから答えた。しかしその答えの内容が、かなり踏み込んでいる。台所方の帳面の計算間違いを見つけた、というのは、単に算術ができるという話ではない。数字を見て問題を発見できる、ということだ。


「さとに言いましたか、その三か所を」


「……まだ、です。どのようにお伝えすればよいか、考えておりましたので」


「どのように伝えるかを考えていた、というのは」


「台所方の帳面を任されているのは、先輩の女官でございます。わたくしのような新参者が『計算が違います』と申し上げるのは……」


「難しいということですね」


「はい」


 この少女は、正しいことをしようとして、方法に詰まっている。


 それは悪いことではない。むしろ、方法を考えているということ自体が、ただ言われたことをこなすだけの人間との違いを示している。


「さとに言う前に、まず帳面の担当者に確認を取りなさい。計算間違いではなく、自分の読み違いかもしれないという言い方で。そうすれば相手も傷つかない」


 少女が目を大きくした。


「……そのような言い方があるのですか」


「伝えたい内容は同じでも、言い方を変えれば相手の受け取り方が変わります。正しいことを言えばいいだけではない。正しいことを、相手が受け入れられる形で言うことが大事です」


 少女が黙った。


 糸子はそれ以上は言わなかった。


 お梅に目配せして、歩き始めた。


 廊下の角を曲がる前に、糸子はもう一度だけ振り返った。


 少女がまだその場に立って、こちらを見ていた。


 その目に、何か新しいものが灯っていた。


 近衛家への帰り道、お梅が小声で言った。


「姫様、あの子をご存じですか」


「知りません。今日初めて見ました」


「村岡、と名乗っておいででしたが……御所の中でも、ちょっと変わった子だと聞いております」


「変わった、とは」


「賢すぎるというか……女官見習いなのに、御所の帳面の間違いを見つけたとか、台所方の食材の無駄を指摘したとか。半年しか経っていないのに、もうそういう話が出ているそうで」


「悪い話ではないですね」


「それが……古参の女官の方々には、あまり好かれていないようで。生意気だと」


「正しいことを言うから、嫌われている」


「そのようで」


 糸子は前を向いたまま言った。


「次に御所に来た時、またあの子に会えるよう、さとに頼んでおいてください」


 お梅が驚いた顔をした。


「それは……なぜでございますか」


「算術ができて、数字を見て問題を発見できて、どう伝えるかを考える子です。使える人材かどうか、もう少し確かめたい」


「姫様、あの子はまだ御所の女官見習いで」


「今はそうです。しかし人材は、見つけた時に手を打っておかないと、取り逃がします」


 お梅がまた困った顔をした。


「姫様は……本当に商売人のように物事を考えておられますね」


「商売人のように、ではなく、商売人として考えています。近衛家の御内証方を任されているのですから」


 近衛家に戻ってから、糸子は父上に御所訪問の報告をした。


 さとと良い関係を築けたこと、食材納入の継続が確定したこと、御所御用達の称号に向けての地ならしが進んでいること。


 父上は糸子の報告を聞きながら、時々驚いた顔をした。


「御所御用達の称号とは……それは簡単に得られるものではないぞ」


「だから今から丁寧に積み上げているのです」


「しかしそのような称号があると、具体的に何が変わるのだ」


 糸子は帳面を開いた。


「例えば、今わたくしたちが扱っている西陣織があります。今の値段で売れています。しかし御所御用達の称号がつけば、同じ品が今より三割から五割高く売れます」


「なぜそうなる」


「品物の価値は、品物そのものだけで決まらないからです。誰が使っているか、誰が認めているか、それによって値段が変わります。御所御用達とは、御門様のお眼鏡にかなった、という意味です。それより上の保証はこの国にはない」


 父上がしばらく考えていた。


「……それは、分かるが」


「それに」


 糸子は続けた。


「御所御用達という看板は、幕府からの横やりを防ぐ盾にもなります。近衛家の商売に文句を言うことは、御所への奉仕に文句を言うことになる。そう解釈させることができます」


 父上の顔が変わった。


「……それを最初から考えていたのか」


「はい」


「屋根を直したいと言い出した時から」


「屋根を直すだけなら、御所は関係ありません。しかしその先を考えれば、御所との関係は最初から組み込んでおく必要がありました。だから、組み込んでおきました」


 父上がため息をついた。


 しかし今日のため息は、困惑ではなかった。どちらかというと、感心に近い響きがあった。


「糸子、お前は将来どうしたいのだ」


 糸子は少し考えた。


「近衛家を、この国で最も豊かで、最も賢く動ける家にしたいと思います」


「豊かで、賢く動ける」


「豊かさがなければ、動けません。動けなければ、この国が外国に食い物にされる時に、何もできません」


「外国に食い物にされる……それはどういうことだ」


 父上の目に、真剣な光が宿った。


 糸子は父上を見た。


 この人は馬鹿ではない。典型的な公家の当主として、外の世界に疎い面はある。しかし理解する能力がないわけではない。


 どこまで話すか、少し考えた。


「父上、南蛮の国々のことを、どの程度ご存じですか」


「……長崎に出入りしているオランダのことと、唐土の清国がイギリスと阿片をめぐって争い、敗れたという話くらいは聞いている」


「清朝がイギリスに敗れた戦争の詳細を、もし機会があればお読みになってください。この国にとって、あの戦争は他人事ではありません」


「他人事ではない……とは、いったい」


「清朝は大国でした。人口も土地も、イギリスなど比べものにならないほど大きい。しかし負けました。武器の差だと思われがちですが、実は準備の差です。相手のことを知らなかった。知らないまま戦った。それで負けた」


 父上が黙った。


「この国も、同じことになりかねません。今のうちに準備をしておかなければ」


「準備、とはどのような」


「まず金を作ること。次に情報を集めること。そして外国と対等に話せる立場を作ること」


 父上はしばらく沈黙していた。


 それからゆっくりと言った。


「……続けなさい、糸子。父に分かることは何でも協力しよう」


 糸子は頭を下げた。


「ありがとうございます、父上」


 十日後、糸子は再び御所を訪ねた。


 さとへの挨拶を済ませた後、さりげなく言った。


「先日、廊下で見習いの子に少し話しかけました。村岡という子です。今日もいますか」


 さとが少し間を置いた。


「……おりますが。あの子が何か」


「少しだけ話したいことがあります。時間をとっていただけますか」


 さとの顔に、複雑な表情が浮かんだ。


「姫様、あの子は……少々扱いが難しい子でして」


「扱いが難しい、というのは」


「賢いのは確かなのですが……古参の者たちとの折り合いが今一つで。周りと馴染めていない部分がございます」


「なるほど」


 糸子は頷いた。


「だからこそ少し話してみたいのです。近衛家のお手伝いをしてもらえるかどうか、確かめたいので」


 さとが目を丸くした。


「近衛家のお手伝い、でございますか。あの子を」


「御所の中でうまく使えていないなら、外でお借りしたほうが双方のためになるかもしれません。御所を辞めさせるわけではなく、時々近衛家に出向いてもらう形で」


 さとがしばらく考えた。


「……あの子もそれを望みますかどうか」


「確かめてみましょう」


 村岡が連れてこられた時、糸子はさとに席を外してもらった。


 二人だけになった座敷で、糸子は村岡を正面から見た。


 村岡は緊張していた。近衛家の姫君に呼ばれた理由が分からず、表情が固い。


 しかし目は固まっていない。


 糸子は単刀直入に言った。


「先日の帳面の件、その後どうしましたか」


 村岡がわずかに驚いた顔をした。


「……姫君様がお教えくださった通りに、担当の先輩に申し上げました」


「どうなりましたか」


「確認していただいたところ、やはり三か所、計算が合っていませんでした。訂正してくださいました」


「その先輩は怒りましたか」


「……最初は少し、ご不快そうでしたが。最終的には、気づいてくれてよかったと仰っていただきました」


「うまくいったのですね」


「はい。……姫君様のお言葉のおかげでございます」


 糸子は少し間を置いた。


「村岡、近衛家のお手伝いをしてもらえますか」


 村岡が固まった。


「て、手伝い……でございますか。わたくしのような者が」


「算術ができて、数字を見て問題を発見できる人が必要なのです。御所を辞めてほしいわけではありません。時々近衛家に来てもらって、帳面を見てもらえれば」


「しかし、わたくしは御所の女官見習いで……」


「さとに話は通してあります」


 村岡が口を閉じた。


 糸子は続けた。


「断っても構いません。ただ、あなたが御所の中で居心地が悪い思いをしているなら、外に別の居場所があっても損はないと思います」


 村岡がじっと糸子を見た。


 その目が、ゆっくりと動いた。値踏みではなく、考えている目だ。


 しばらくして、村岡が言った。


「……一つ、お聞きしてよろしいですか」


「どうぞ」


「姫君様は、なぜわたくしなのですか。御所には他にも……」


「他にいないからです、あなたのような人は」


 村岡が黙った。


「算術ができる人はいます。帳面を読める人もいます。しかしどう伝えるかを考える人は少ない。正しいことをただ言うのではなく、相手が受け入れられる形で言うことを、自然に考えられる人は」


「わたくしは……それを考えていたわけではなく、ただ怖かっただけで」


「怖いと思ったから、方法を考えた。それで十分です」


 村岡がまた黙った。


 今度の沈黙は長かった。


 糸子は待った。


 急かさない。この子が自分で決めることが大事だ。


 やがて村岡が、静かに頭を下げた。


「……よろしくお願いいたします」


 その帰り道、お梅が歩きながら小声で言った。


「姫様、あの子を本当に近衛家のお手伝いに引き込んでよかったのですか。御所の女官見習いを、近衛家が抱え込むのは」


「抱え込むわけではありません。御所に籍を置いたまま、時々手伝ってもらうだけです」


「しかし古参の女官たちに、姫様が引き抜いたと思われると」


「さとが了承しているなら問題ありません。それに古参の女官たちが村岡を好いていないなら、外に出してあげるのは御所にとっても好都合でしょう」


「姫様は……本当に抜け目ないですね」


「褒め言葉として受け取ります」


 お梅が苦笑した。


 糸子は前を向いたまま続けた。


「お梅、人材を見つけることと、育てることは、商売と同じくらい大事な仕事です。わたくし一人では、やれることに限りがあります。やがてもっと大きな仕事をするには、信頼できる人が要ります」


「村岡という子が、そのひとりになれると」


「まだ分かりません。しかし可能性はあります。可能性のある人間に、機会を与えない理由はない」


 秋の空が高かった。


 御所から近衛家への道を歩きながら、糸子は頭の中で計算を続けた。


 御所御用達への道筋。鴻池との取引拡大。江戸への販路。村岡という新しい人材。


 一つ一つは小さい。


 しかし積み重なれば、形になる。


 残された時間は、多くない。


 糸子は歩みを速めた。


 やることが、たくさんある。


 近衛家に戻った夜、糸子は帳面に書き込んだ。


 御所台所方との関係確立。さとの信頼を得た。


 村岡、近衛家の手伝いに加わることになった。算術と数字の読み方に長ける。今後の活用方法を検討する。


 筆を走らせながら、糸子は村岡の目を思い出した。


 あの目は、何かを知っている目だ。


 いや、正確には、何かを理解しようとしている目だ。


 前世の咲が研究者を志した時、似たような目をしていたかもしれない。


 しかし村岡は今、御所の女官見習いとして古参の女官たちに居場所を削られている。


 正しいことを言いすぎるから、嫌われている。


 それは咲も経験したことだ。百貨店で新しい提案をするたびに、古参の社員から「余計なことを言うな」と煙たがられた。


 しかし糸子には、村岡を守る立場がある。近衛家の姫君という肩書きがある。


 使える肩書きは使う。


 それが商売だ。


 糸子は帳面を閉じ、行灯の灯を吹き消した。


 暗闇の中で、今日の手応えを確かめた。


 悪くない。


 第三話 了

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― 新着の感想 ―
幕末の平均寿命を考えると60前後は妖怪の類ですね
>一話目に父上に言った言葉と同じ これは勿体無い メタは世界観にそぐわないと思われます
帳面のミスは単なる手違いか、或いは汚職事か。 台所(意味深)を探る必用がありそうですね。
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