王都
成政は石畳の上で体を低く構え、魔導銃を両手で支えた。
青い煙が銃口から立ち上り、騎士たちの甲冑が鈍く光る。
騎士団は円陣を組み、魔力の槍を青く輝かせて再び距離を詰めてくる。
成政の左腕は毒の痺れで感覚が薄く、肩の傷から血が滴り落ち、石畳を赤く染めていく。
「来るか」
成政は息を吐き、銃身をゆっくりと水平に構え直す。
青い結晶が低く唸り、魔力が再び充填されていく。
次の射撃で、少なくとも三人は仕留められる。
だが――
その瞬間。
地響きが王都全体を震わせた。
石畳が波打つようにひび割れ、近くの尖塔が傾く。
騎士たちの動きが一瞬止まり、皆が空を見上げる。
成政も視線を上げた。
黒雲の渦の下から、巨大な影がゆっくりと降下してくる。
翼はない。
代わりに、四本の太い脚と、鱗に覆われた巨体。
全長は5メートルはあろうか。
口から漏れる赤い光が、夜のように暗くなった王都を照らす。
――火を噴く大蜥蜴。
「これも、魔物とかいうやつか?」
成政の呟きが風に消える。
それは蜥蜴に近いが、背中から噴き出す炎の尾が、まるで溶岩のように街路を焼き払っている。
巨体が一歩踏み出すたび、地面が陥没し、石畳が砕け散る。
教会の尖塔が根元から折れ、鐘が悲鳴のように鳴り響く。
家屋が崩れ、炎が一気に広がる。
王都ゴルドスプリングが、瞬時に地獄絵図と化す。
騎士団の隊長らしき男が叫ぶ。
「王家の守護獣……『焔鱗』が!
なぜこのような……!」
秀吉は馬車の上で杖を握りしめ、顔を強張らせる。
「…まずいな、守護獣を傷付けることとなれば、王の逆鱗に触れる…」
焔鱗が首を振り上げ、巨大な口を開く。
赤黒い炎が渦を巻き、まるで太陽が落ちてきたかのように王都の中央広場を直撃。
爆風が成政を吹き飛ばし、石畳に叩きつけられる。
魔導銃が手から離れ、転がる。
炎の熱波が肌を焦がし、視界が赤く染まる。
「ぐっ……!」
成政は這いずりながら銃に手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、青い結晶が激しく脈打つ。
まるで、成政の怒りと渇望に応えるように。
焔蜥王が再び口を開き、炎を吐き出そうとする。
騎士団は散り散りになり、逃げ惑う。
秀吉の馬車が炎に巻かれ、黒煙が上がる。
成政は立ち上がる。
毒の痛みも、肩の傷も、すべてを無視して魔導銃を構える。
銃身が青く発光し、粒子が渦を巻く。
「……秀吉。おぬしが王の犬なら、この蜥蜴も王の犬じゃろう。
ならば、まとめて仕留めるまでじゃ」
引き金に指をかける。
青い魔力が銃口に集中し、閃光が迸る。
青白い光線が焔蜥王の首元を貫く。
鱗が砕け、黒い血が噴き出す。
巨体がよろめき、王都の城壁に激突して崩れ落ちる。
だが、まだ死んでいない。
焔蜥王が咆哮を上げ、再び炎を溜め始める。
成政は息を荒げ、銃を構え直す。
騎士団は守護獣相手に迂闊に手を出せずにいる。
王の被官である彼らがみだりに王家の守護獣を傷付ければ、極刑は免れない。
秀吉の姿は煙の中に消えていた。
「……まだ、終わらん」
成政は低く呟き、魔導銃の青い光を頼りに、炎の海の中を進む。
左腕には変わらず裂くような痛みが走る。
だが、成政の闘志は、決して消えていない。
焔鱗の巨体が再び立ち上がり、口から赤黒い炎を溜め込む。
王都の石畳は溶け始め、崩れた家屋から悲鳴が上がる。
隊長らしき騎士が、煙の中から叫ぶ。
「貴様が王の敵であろうと、今は関係ない!
王都が滅びればすべて終わりだ!民草を守るためにも、一時的に手を組んでくれ!」
成政は一瞬、銃口を騎士に向けた。
だが、焔鱗の咆哮が空を裂き、炎の尾が広場を薙ぎ払う。
成政は舌打ちし、銃を蜥蜴に向け直す。
「……よかろう。ただし、お主らを助けるためではなく、あくまで民草のためじゃ」
騎士隊長は兜の下で頷き、槍を掲げる。
「了解した! 騎士団、魔力結界を張り、炎を防げ!」
十数名の騎士が散開し、青い魔力の光を繋げて簡易的な結界を形成する。
炎の熱波が結界にぶつかり、青白い火花が散る。
成政はそれを盾に、魔導銃を構えて前進する。
焔鱗の巨体が振り向き、成政を睨む。
赤い複眼が輝き、口から炎が噴き出そうとする。
成政は息を止め、引き金を引く。
青白い光線が焔蜥王の左前脚の関節を貫く。
鱗が砕け、黒い血が噴き出し、巨体が大きく傾く。
焔蜥王が咆哮を上げ、尾を振り回す。
炎の尾が騎士数人を吹き飛ばし、結界が一部崩れる。
成政は紙一重で躱し、銃口を蜥蜴の首元に合わせる。
「――終わりじゃ!」
二連射。
青い閃光が連続で蜥蜴の喉元を抉る。
鱗が剥がれ、内部の赤い肉が露わになる。
焔蜥王が悲鳴のような咆哮を上げ、巨体がゆっくりと倒れ込む。
王都の中央広場に、衝撃波とともに崩れ落ちる。
炎が収まり、黒煙が立ち上る。
成政は銃を下ろし、息を荒げて膝をつく。
毒と傷の痛みが一気に押し寄せる。
周囲の騎士たちは呆然と立ち尽くし、隊長が近づいてくる。
「貴様のおかげで、王都は守られた。感謝する……」
成政はゆっくり立ち上がる。
銃口を隊長に向ける。
「感謝などいらん。
俺は王の配下どもを、まとめて討つつもりじゃ。
おぬしらも例外ではない」
隊長は槍を下ろし、静かに言った。
「…ならば、今は逃げろ。王の逆鱗に触れる前に。」
成政は一瞬、視線を王城の方へ向ける。
黒雲の渦がさらに濃くなり、遠くで新たな咆哮が響く。
「……ふん。ならば、次は王を斬るまでじゃ」
成政は魔導銃を肩に担ぎ、炎の残る王都の路地へ身を翻す。
騎士団は追わず、ただ見送るだけだった。
一時的な協力は終わった。




